治療院成功への道 第6回
「技術の学び方」

 私の院に、鍼灸師を目指す学生さんが患者さんとして来院しています。この春、高校を卒業し、鍼灸師になるべく専門学校に進学しました。彼が来院し始めたのは中学2年の時でした。患者さんの症状を事細かく言うのは差し控えますが、めまいや立ち眩みで朝起きあがることができない症状でした。

 来院し始めてから、症状も徐々に改善し、志望していた高校にも無事入学できました。高校生になっても症状はぶり返すことなく、鍼灸師の道に進むことを決めたとのことでした。来月から経験を積むために整骨院でアルバイトを始めると、治療後に教えてくれました。心から「頑張ってください!」と応援しています。
 

今の時代はどうすれば技術を習得できる?

 ふと自分が学生だった20年ほど前のことを思い出してみました。その頃、私は整骨院で下働きをしながら、夜間部の柔整師の専門学校に通っていました。当時は朝イチから整骨院で働き、夜は専門学校。将来は絶対独立したいと思っていたので、2年生の頃から休日は治療の技術や知識を学ぶ勉強会に月に2回ほど参加していました。

 また働いていた整骨院でも土曜日の半ドンの日に、最低でも月に1回は勉強会がありました。当時は良くも悪しくも労基(労働基準監督署)なんて関係なく、専門学校の夏休みや冬休みの時は、仕事が終わったあとも、夜遅くまで整骨院内の勉強会に参加していました。朝は8時前から勤務、23時を回って帰宅するのが当たり前でした。

 今思えば法律上あり得ないことですが、当時は院長や兄弟子の許可が出れば、学生でも患者さんの施術を担当させてもらえました。お陰で沢山の患者さんと関わらせていただき、経験を積むことができました。
 

働き方改革によって治療家は育たなくなったのか?

 私が専門学校の学生だった頃の給料は、学費や交通費を払えば手元にはいくらも残りませんでした。お金も時間もなかったため、治療のことだけを考え6年ほど下積みができました。本当にあの期間があったからこそ、技術を学ぶきっかけをいただけたと思っています。

 それから20年が経過し、今は治療院を経営する側になっていますが、当然のことながら治療院で人を雇用すると、労基に沿ってスタッフを指導しなければなりません。昔は当たり前だった、仕事が終わった後の研修や、休日に勉強会も今のご時世でやろうものなら、顧問の社会保険労務士から確実に「待った!」がかかります。

 しかし、臨床において患者さんの悩みを解決する技術は、労基に沿った指導だけでは容易に身につけることはできません。私が主宰する治療院成功塾では、「経営が安定しない」と相談を持ちかけられる機会が多くあります。詳しく話を聞いてみると、整骨院で数年下働きをした後に独立したものの、技術と言えばマニュアル通りのマッサージや、ストレッチしかできないとのことでした。これでは、どんな経営手法を試したところで、患者さんの悩みを解消させることはできないので、経営は安定しません。

 技術や知識を研鑽しないがために、競争力が高まった治療院業界で生き抜くことができず、独立後に数年で廃業していく治療家を数多く見てきました。下積み時代に会社に守られ、院内だけの研修や技術指導しか受けていない治療家が、競争が激化し、高齢化が進む日本で生き抜いていくことができるでしょうか?もし将来独立を考えているなら、職場で与えてもらうだけはダメだと考えています。
 

石の上にも3年と言われるが技術の習得は10年

 昔、空手を習っていた時に師範代から言われた言葉を覚えています。「石の上にも3年と言われるが道は10年の時間が必要」だと。技術を身につけるためには、せめて10年の修行が必要だということだと理解しました。私は柔整師の資格を取得した後、次は鍼灸師の資格を取得するために、働きながら専門学校に通いました。

 鍼灸の学生時代、学校の先生が授業中に宮大工の職人、西岡常一さんが書いた「木に学べ」という本を推薦されたので、すぐさま購入して読みました。その本の一文を今でも鮮明に覚えています。修行中の大工の方の鉋(カンナ)くずを見て、西岡さんが「刃物が0.1ミリくらいカーブしている言いましたやろ、それで研ぎ直しなさいと言いましたが、あれぐらいの細かいことがわからんと、すぐ鉋くずに現れる。あれを研ぎ直すのは大変ですわ、0.01ミリやけどその欠点に自分が気づいとらんのやから。周囲の人で自分より上手い人を見て、覚えなあかんのや。あの人のカンナはなんであんなにようキレるんやろ思うたら、休憩で休んでいる時にそーっとその人のカンナを調べてみるんや。そうやって覚えていくんや、盗み取るんや、その人の技術を。教えられてもよう覚えんもんや」。

 この本から技術の教わり方を知りました。僕の学び方が正しいとは思いませんが、やはり技術や知識を身につけるためには、自分から教わる姿勢が大切だと考えています。
 

技術の研鑽を継続するためには楽しむこと

 15年前にモーション・パルペーション研究会(MPSG)のセミナーに参加して、カイロプラクティックの技術を学ぶ機会を得ました。技術を身につけるために、治療者の立ち方や、患者さんの触り方、力のかけ方といったことは、今でも古参の講師の方々や、MPSGの会長である中川貴雄先生に質問し、学び直すことができています。賢人の治療家たちから教わった技術や知識を用いて、今まで治せなかった患者さんの不調が改善していく姿を見ると、とても嬉しいし治療が楽しくなります。

 名人と呼ばれる治療家の先生は、今でも常に技術や知識をブラッシュアップしています。技術の研鑽はとても地味な取り組みだと思います。でも、この取り組みがあるからこそ、日々の治療を飽きることなく楽しめています。技術や知識をブラッシュアップしていくには、ボチボチ楽しみながら取り組むことだと思っています。そして、近道は優秀な治療家から上手に教わることだと思います。

 科学新聞社の齋藤信次氏の付き合いの広さからなんでしょうが、彼の連れてくる治療家の先生方は、臨床で患者さんの悩みを紐解く技術や、知識を持っている方ばかりです。私は10年以上、科学新聞社のセミナーに参加させていただいていますが、これから治療家を目指す方や、どんな技術を学べばいいのか迷っている方たちにこそ、是非ともお勧めしたいセミナーです。

 将来開業を目指しているなら、職場で与えられているだけでは独立後に安定した治療院経営はできません。当たり前のことですが、治療院のメインになる商品は治療です。ラーメンの美味しくないラーメン屋さんが、いくら経営努力をしてもお客さんは集まらないと思います。

 休日に時間を費やしお金を遣って、治療の技術の研鑽に打ち込む努力は必ず数年後に、患者さんから「先生、ありがとう」「先生に出会えて良かった」と、感謝の言葉として返ってくると信じています。その結果、治療院を開業したときに安定した経営ができるようになると、私は確信しています。
 


作尾 大介(さくお だいすけ)

こころ鍼灸整骨院 院長
治療院成功塾 主宰
・柔道整復師
(一社)微弱電流療法研究会 代表理事
空手の指導者をしていたときに、ケガで修業を断念する道場生たちを目の当たりにし、治療家の道を志す。整骨院での下積みと勉強の日々が続く中でも稽古は欠かさず、大会で優勝を飾る。選手引退後、2013年に外傷以外保険診療を一切使わない整骨院を開業するも、施術単価が安い同業者が立ち並ぶ中、自費診療は受け入れられない状況が続き、もう廃業かと追い詰められたときに、もっと経営の勉強をしなければと寝る間を惜しんで経営の勉強に取り組む。その後、業績は V 字回復を果たす。
全く経営理念の違う古株の治療家から嫌がらせを受けたこともあったが、「保険診療に頼らない院の経営方法を教えてほしい」という同業者からの声を受け、自費診療での安定した院の経営方法を教える塾を主宰。2020年、新型コロナウイルス感染拡大によって廃業する院も出る中、塾生たちは全員売り上げを伸ばし、中には緊急事態宣言中に開業し、月100万円を超える収益を叩き出した人もいた。
現在も、自費診療で質の高い経営を継続させる方法を伝える傍ら、MPSGに所属しカイロプラクティックの勉強に励んでいる。

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