治療院成功への道 第3回
「治療家を志す高校生からのインタビューを受けて」

治療家を志す高校生からインタビューを受けました。

 ある日、オフィスに兵庫県のある高校の先生から電話がありました。内容は社会勉強の一環として、地元の企業に同校の学生がインタビューしているとのことでした。最初はあまり乗り気になれなかったのですが、その先生から「生徒が自ら御社様のホームページやブログを見て、『是非この方からお話を伺いたい』と希望してきまして」というひと言を聞いて、俄然引き受けることを決めました。

 インタビューの予定日は8月のお盆前で、夏休みにもかかわらず学校の課題をこなす生徒にも好感を持っていました。実際に会ってみると、とても真面目な生徒さんでした。うだるような暑さの中、治療院まで自転車を飛ばしてきてくれたようで、息を切らし汗だくになりながら挨拶をしてくれました。

 目の前の真面目な生徒さんを見て、思わず自分の不真面目な高校の頃を思い出し、なんだか申し訳ない気分になりました。オフィスの待合室で冷たいお茶を出し、少しの間涼んでいただいたあと、インタビューをお受けすることになりました。学生の汗が引いた頃合いを見て、インタビューをお受けすると、生徒さんは緊張のためか再び汗だくになりながら、恐る恐る質問を始めました。

「どうして、今の仕事(治療家)を選んだんですか?」

 質問は5つほどありました。印象に残った質問が2つあったので鮮明に覚えています。一つは「どうして、今の仕事を選んだのですか?」という質問です。私が治療家を志した理由は、10代の頃に極真空手を習っていたとき、練習中に膝のケガをしてしまい、整骨院の先生に治していただいたことがキッカケでした。当時は道場に強い先輩がたくさんいて、組手で何度もボコボコにされていました。道場に行く前はいつも胃が痛くなったことを覚えています。

 そんな中、試合の2週間前に組手中にケガをしてしまい、和式のトイレでしゃがめないくらい膝がパンパンに腫れました。病院に行ったら「しばらく安静に」ということで湿布を渡されただけで、様子を見てくれとのことでしたが、一向に膝の腫れは引かず良くならない状況でした。「このままでは試合に間に合わない…」。そう考えて知人に相談すると、ある整骨院を紹介していただき、治療を受けることになったのです。

 初めてその整骨院で治療を受けたときに、「その先生が膝に触れるだけで、どうしてこんなに痛みがなくなるのだろう!」と衝撃を受けました。整骨院で膝の治療を3回ほど受けると、見る見る膝の腫れが引き試合で準優勝を収めることができました。この体験がきっかけで、将来は治療家になりたいと考えるようになったのです。生徒さんから質問を受けて、当時の志を思い出し胸が熱くなりました。

昔と違う業界、今の若者に治療家という職業を勧めることは?

 最後に生徒さんから「これから治療家を目指す高校生に、何かアドバイスがあればお願いします」と言われ、質問に答える前に、ふと目の前の高校生に「ひょっとしたら、将来治療家を目指しているの?」と聞いたら、静かに2回頷いたのです。なので、このような質問に私が答えるのはおこがましいですが、思うことをはっきり答えさせていただきました。

 一つは治療家の仕事はとてもやりがいのある仕事だということ。しかし、治療家として食べていくためには努力が必要だということ。私はモーション・パルペーション研究会(MPSG)でカイロプラクティックを学ぶ傍ら、科学新聞社が主催する丸山正好先生の「局在神経学講座」も受講しています。

 丸山先生がセミナーの中で「1万時間の法則」ということについて話されました。ありていに言えば、技術を習得するためには最低1万時間は必要になるということでした。この法則の元に、技術を学ぶために1日8時間費やれば、およそ3年半かかるということです。

 でも私のように無精な人間は、一つの技術や知識を習得するために何十年と時間がかかっています。なので、治療家を目指すなら下積みが必要になることを伝えさせていただきました。技術や知識を習得し、人間性を磨くことによって患者さんから「先生」と呼ばれるようになるのだと私は考えています。

治療家という職業を社会に認知してもらうためには、患者さんだけでなく社会にも責任を果たす必要がある。

 インタビューにきた高校生には伝えなかったことがあります。それは、独立開業したら終わりではなく、実業家としての顔も必要になることです。厳しい話ではありますが、治療家として独立した限りは食べていかなければなりません。それだけでなく、独立するということは、この国で事業を営むことになります。

 つまり、独立した限りは責任を持って患者さんを治療するだけでなく、社会に対して責任を果たしていく義務まで発生します。もし、これから後世に治療家の仕事をお勧めするならば、自らが治療家として食べていける姿を見せることが大切だと考えています。厳しい下積みを経て独立したのに、事業者として消費税も支払えないようでは、将来、治療家になりたいと思う若者はいなくなると考えています。

 治療家という仕事を社会に認知していただくためには、社会に対しても責任を果たしていく必要があると考えています。社会に対して責任を果たせないようでは、胸を張って後世に「治療家になれば飯が食える」と、お勧めすることはできないと思うのです。今更ですが、私は患者さんを施術してお金を頂き、さらに「ありがとう」と感謝される治療家の仕事が本当に大好きです。

 これからも技術と人間性を磨き、患者さんのお役に立てるように、精進していきます。さらに自分自身も社会に責任を果たしていけるように、取り組んでいきます。


作尾 大介(さくお だいすけ)

こころ鍼灸整骨院 院長
治療院成功塾 主宰
・柔道整復師
(一社)微弱電流療法研究会 代表理事
空手の指導者をしていたときに、ケガで修業を断念する道場生たちを目の当たりにし、治療家の道を志す。整骨院での下積みと勉強の日々が続く中でも稽古は欠かさず、大会で優勝を飾る。選手引退後、2013年に外傷以外保険診療を一切使わない整骨院を開業するも、施術単価が安い同業者が立ち並ぶ中、自費診療は受け入れられない状況が続き、もう廃業かと追い詰められたときに、もっと経営の勉強をしなければと寝る間を惜しんで経営の勉強に取り組む。その後、業績は V 字回復を果たす。
全く経営理念の違う古株の治療家から嫌がらせを受けたこともあったが、「保険診療に頼らない院の経営方法を教えてほしい」という同業者からの声を受け、自費診療での安定した院の経営方法を教える塾を主宰。2020年、新型コロナウイルス感染拡大によって廃業する院も出る中、塾生たちは全員売り上げを伸ばし、中には緊急事態宣言中に開業し、月100万円を超える収益を叩き出した人もいた。
現在も、自費診療で質の高い経営を継続させる方法を伝える傍ら、MPSGに所属しカイロプラクティックの勉強に励んでいる。

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