吉田美和D.C.
「アジャストができずアメリカへ、それを打破してくれる誰かがいてほしい」
ロサンゼルス在住の吉田美和D.C.。カイロプラクティック・オフィスの運営と、4人の息子の母として日々大忙し。8月28・29日の「吉田美和D.C. アジャストメント・セミナー」(科学新聞社主催)のため来日した際に、セミナーの感想やロサンゼルスのカイロプラクティック事情などをお聞きした。
(聞き手:カイロジャーナル編集部 櫻井京)
(聞き手:カイロジャーナル編集部 櫻井京)
日本でのセミナー活動と日本事情
- 2年半ぶりの日本でのセミナー開催だそうですが、今回のセミナーの感想をお聞かせください。
- 吉田:一言で言うと、女性パワーがすごかったです。活気があって、私も楽しかったです。日本の参加者には、何か燃えるものがあると思いました。日本のカイロプラクティック界が地盤沈下状態だと聞いていたんですけど、風が吹けばまだまだ行けます。今、ぽっとついた火が消えずに燃えていってほしいです。
私が日本を離れて、17〜18年になるんですが、アジャストについては20年前と全く状況が変わっていないと思います。特に女子のレベルは、あまり変わっていないです。
セミナーでは、最初はおとなしい感じでしたが、どんどん触発されていって、最後は女子の方が私を捕まえてでも質問する感じでした。2日間で変わりましたよね。ずいぶん上達したとも思います。ただ、女子の指導者不足という現実はあると思います。男子の指導者はいっぱいいると思うけど、D.C.だけじゃなくてノンD.C.でも、女性の人がもっと出て活躍してくれればと思います。世の中の半分は女なので。 - アメリカでも教えられているのですか?
- 吉田:セミナーはやっていません。クリニックが南カリフォルニア健康科学大学(SCUHS)の学外クリニックになっているので、1、2人のインターンに教えるということはありますが。
- 日本人の女子は平均的なアメリカ人より腕力がないと思いますが、カイロプラクティックの手技においてはどうでしょうか?
- 吉田:それは全然関係ないですね。今回の出席者もけっこう身体の大きな人もいましたけど、私がアジャストできなかった人は一人もいなかったです。これから女性で開業する人は、ビジネスのノウハウも習ってぜひ成功してほしいです。日本では、カウンセリングができる人が少ないし、それらも含めた治療で、癒しをプラスしたカイロの空間ができてくるといいと思います。
- 最近WFCの新声明というのが出ました。「D.C.の“JAC/WFCの認めるカイロプラクター”以外へのセミナー活動を阻止すべき」としていますが、それについてはどう思われますか?
- 吉田:私のセミナーに関しては何も言われたことはないですし、その声明はよく知られていません。日本の現状は、外国人にはわからない世界だと思います。日本でやっている人にしかわからない状況です。外国人にはまず日本語がわからないし、日本のカイロプラクターが何なのかということも、柔整があって、鍼灸があって、療術があってなんていうことも、細かくわかっていないと思います。
私にしたって、実際にノンD.C.がアジャストするなんて考えられないことですから。 - それはアメリカでは、ということですか?
- 吉田:アメリカでもどこでもです。医療行為だから。今日のセミナーでも言ったことですけど、解剖もわからない人に内臓の手術をさせるかってみんなに聞いたんですよ。そしたらみんなさせないって。そういうことなんです。だけど、どうせこの20年変わっていなくて、どうせ止めても、カイロプラクターが増えている(?)、もしくは、ずっと存在しているのだから、そうであればその人たちが事故を起こさずにちゃんとできるようにしてあげるのも道だと思うんですよ、どうせ止まらないから。アジャストするなって言ってもアジャストするんだし。だからその道をつくる役は私でもいいし、別な人でもいい。
本当はライセンスの更新みたいに、これを取らなければ開業させないというぐらいになって、ちょっとでもレベルが上がればいいかなぐらいに思っています。カイロプラクターと呼ばれている人達のピンキリの幅が大き過ぎます。でもそれは昔からです。協会なども全く1つになる気配もないし、何も変わってない。だけどどうせアジャストするならば、誰も傷つけないでほしいと思います。 - CSC(カイロプラクティック標準化コース)の履修についてはどう思いますか?
- 吉田:そういうのに全く関与して来なかったから、アメリカに行く前のことしか知らないんですよ。今回アジャストを教えようと思ったのは、セミナーに人を集めるためじゃなくて、自分はアジャストができなくてアメリカに行ったけれど、それを打破してくれる誰かがいてほしいから、今回は自分が案内役になっただけ。教えてあげられるから。カイロのことを信じているから。だから今回は鑑別診断を始め、問診、整形外科検査、神経学と、カイロ大学の4年間を教えるぐらいの気持ちでやってみました。そうしたら皆、新たに解剖学の本などを買って、やる気をみせてくれました。
- では、柔道整復師などに教えることはどう思いますか?
- 吉田:別にいいと思いますよね。鍼灸師とか。まだ解剖とか勉強してるだけいいですよ。やりたい人がやればいい。何でもそうだけど弱肉強食ですよ、本当に。でもそこで違うってことを見せつけて頑張ればいい。反対に、「カイロプラクターが柔整のことをやったっていいじゃない」ぐらいの、逆に食うぐらいの勢いのあるものになってほしいですよ。
結局はビジネスなんで、人気商売だし、選ぶのは消費者、患者さんです。そういった意味では、消費者の患者さんが、「カイロってすごい、お医者さんよりもいい」ってならないと。「カイロって怖い」じゃなくて。
アメリカだってカナダだってそう。政府が何度もカイロプラクティックを保険から除外しようとしたり、治療には医師の判断が必要とする法律修正案を出したりしてもことごとくつぶされます。何によってつぶされるかと言えば、国民の意見によって、選挙でつぶされるんですよ。日本もそれぐらいになってほしいです。
「続けられるだけでもすごいよね」じゃなくて「開業して流行って普通じゃん。だってカイロってすごいから」ぐらいにはなってほしいです。 - 今後のセミナー活動の予定は?
- 吉田:どうでしょう、全くわからないですね。今回は何も考えないでやっちゃいましたけど。もしかしたらこれが最後のテクニックセミナーかもってみんなに言ったんですよ。私にとってはセミナーをやらなくても何てことはないです。でも日本でカイロを始めて、アメリカまで渡り、私みたいな人達がやるのもいいのかなって思ったりもします。
アメリカ・カイロプラクティック事情
- ところで、アメリカでもカイロプラクターをやっていくのは大変な時代になったと聞きます。特にカリフォルニアなどは人数が多くなっていると。それに卒業後、勤めるとしても歩合制のアソシエイトぐらいしかないとも聞きますけど。
- 吉田:そうですよ。学校卒業した人の半分以上がやめるんですから。やれる人はやれるし、やれない人はやれない。アソシエイトでやっていけなくてやめる人はたくさんいます。
- 最近の方が状況は厳しくなっていますか?
- 吉田:そうですね。保険で入るお金が減ったことが一番大きいと思います。保険の種類は多いのですが、ディダクタブルと言って、年間の医療費が5000ドルになるまでは自分で払わなくてはならないというような保険が一般的になってきました。そういう保険でないと高過ぎて一般の人は入れません。うちに来られている保険支払いの患者さんも、保険会社との契約上、毎回40ドルぐらい払っています。通常、現金直接払いはディスカウント・レートになるので、結局、保険を持っている人でも、現金払いの人でも、払うお金はそれほど変わらないという状況になっています。
- 低所得者対象の政府の健康保険というのは、カイロプラクティックも対象になるのですか?
- 吉田:そうですけど、でも一回20ドルぐらいしか出ません。一人にファイルを作ると、事務作業、その他で経費が20ドルぐらいかかる。だからほとんどのカイロプラクターはバカらしいから断っちゃいますね。
- 断ってもいいのですか?
- 吉田:いいんです。ただ、メディケア(政府の老人保健)は断れません。一回26ドルで、ほんとは取りたくないですけどね。でもそのお陰でファミリーで来てくれたり、その子供が来てくれたりとかもありますね。
- いろいろあるんですねえ。では、一般料金というのはいくらなんですか?
- 吉田:うちは50ドル。全部現金払いという患者さんも結構います。金額は安い方だと思います。普通は65ドルぐらいにしているところが多いです。
クリニックでの日々
- 現在、運営されているカイロプラクティック・クリニック「ヘルスウェルネスセンター」についてお聞かせください。
- 吉田:元カリフォルニア・カイロプラクティック協会会長で、元南カリフォルニア健康科学大学(SCUHS)のクリニシャン、ドクター・バックリーとの共同経営です。私もここを始める前はSCUHSのクリニシャンだったのですが、その時代に彼からいろいろ学ぶことも多く、またライバルのような存在でもありました。ここは大学経営のクリニックだったのですが、大学の学生数が減ったことなどで経費が大変になり、私たちに引き継いでくれないかという打診がありました。建物は大学からのサブリースで、患者ファイルは渡すから従業員も全部面倒を見てくれという条件でした。その話がきたときに、私は妊婦だったので身動きが取れませんでした。10歳の子供を筆頭に3人の子がいてさらにもう一人……頭の中真っ白という感じです。結果的にはドクター・バックリーが話を進めてくれました。大学も妊婦は労働契約上切れないので、その期間を待って移行することにしました。私の出産予定日と開業予定日が一緒で、出産後のことはわからないのに、すぐ働かなくちゃいけないと思うとすごいプレッシャーでした。
- 出産してすぐに働き始めたんですか?
- 吉田:そうですよ、2週間ぐらいで。働かないと食べていけないし、甘い世界じゃないんです。うちのクリニックは経費が月々6万ドルぐらいかかっているので、それを確保しないと続かないですから。
- 患者はどのぐらい診ているんですか?
- 吉田:クリニック全体では一日80人ぐらいです。カイロのほかに、鍼治療も行っています。そのうちの40人ちょっとは私が診ています。一人に30分ぐらいはかけているので、すごく忙しいですね。私についているのが、D.C.が一人と、マッサージセラピスト、カイロプラクティック・インターン、メディカル・アシスタントの大学のインターンなどがいるので、もう昔の柔整みたいというか、怒鳴り合いみたいになることもあって、大変です。
- すごく忙しいですね。
- 吉田:そうなんです、だけど儲からない。もうマクドナルド、薄利多売です。普通はもう少し潤ってもいいんだけど、大学との関係で経費が多くかかっているから。ビジネスに長けている人からは「何で〜?」って言われますよ。
- 英語はどうですか。経営者としてのマネージメントや患者対応などで苦労することはありますか?
- 吉田:日本人の患者さんは結構来ます。カイロプラクターになってすぐの頃は英語も不得意で日本人の患者さんばかりでしたが、今は6割ぐらいが日本人です。今は患者対応には英語で何も問題はありません。最近は英語は気合いだと思っています。アメリカン・ジョークで笑わせることもできるようになってきたし。ドクターの言うことは患者も聞こうとしますから。
ビジネスの契約とかそういう難しいものは、パートナーのドクター・バックリーや受付の人に回したりしますね。
英語のコンプレックスはずっと、一生あるんじゃないかと思います。もうこちらに来て10数年、はっと気がついたら映画に字幕がいらなくなっていますが、それでも日本語とは違う。今でも文章を書くのは嫌いです。でもあと10年したら自分の息子にでも書いてもらったらいい、ぐらいに思っています。 - 治療の流れはどのように組み立てているのですか?
- 吉田:日本的治療ですね。最初に暖めてマッサージもします。マッサージは私もやります。リハビリの患者にはエクササイズもさせるし、結構たくさんのことをやっていると思います。人間の身体は関節、骨だけじゃなく、筋肉組織が支えているものだから、弱い筋肉は鍛えるし、硬い筋肉は緩めてバランスを取ります。
アジャストは、基本的にディバーシファイドだけです。老人や妊婦には、SOT、アクティベーターも使いますけど、その治療システムに完全に則ってやっているわけでもありません。
私には安藤喜夫D.C.という師匠がいて「現代人は運動もしなくなっているから、人間の身体は基本的にハイポだ。そのハイポを見つけてアジャストしろ」と言われてきました。その真理をずっと信じてやっています。
また、チェーン店みたいな、だれでもできるカイロがしたいんです。ノウハウを習い、それを守れば事故のないちゃんとしたアジャストができること。鑑別診断ができること。割とシンプルです。チェーン店みたいに同じような味が出せれば、それが日本の法制化につながるんじゃないかとも思っています。これはスペシャルでアドバンスで自分にしかできないという治療はやりたくありません。後継者は育てたいし、もっと質のいいカイロプラクターを増やしたいと思っています。 - 帰国することも含めて、今後の予定は考えていますか?
- 吉田:日本に帰りたい気持ちはありますが、まず3年は、契約もあるので今のクリニックを運営していきます。その後は、もっと小さいクリニックに移るかもしれないし、どうするかはわかりません。
今は長期休暇を取ることもないし、臨床が終わってもペーパーワークがあるので、お休みは日曜日ぐらいです。でも仕事が好きなんで、仕事がバケーションみたいなものです。 - 本日はありがとうございました。くれぐれも健康第一で、今後もご活躍ください。またぜひ日本に来てくださいね。
(聞き手:カイロジャーナル編集部 櫻井京)
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