徒手療法の世界に身を置いて
第42回「可動域検査と可動性検査」
可動域検査と可動性検査は共通するところもありますが、全く違うところもあります。それぞれの目的を知ることで、患者さんの状態を評価しやすくなります。
可動域検査と可動性検査
可動域検査とは、理学療法の分野でよく使われる検査法ですが、この検査法は骨運動の可動域を計測することで、運動範囲の確認と制限因子の予想を立てることができます。一方可動性検査は、徒手療法の分野でよく使われるモーション・パルペーション(MP)がこれにあたります。MPで確認できるのは、関節包内運動の制限を見つける検査法になります。
骨運動の制限と関節包内運動
例えば肩関節の屈曲について考えてみましょう。肩関節の屈曲運動は、上腕骨が矢状面上で前方に動いていく運動になります。これを関節包内運動で言い換えると、上腕骨頭の後方回旋になるわけです。また、この後方回旋をベクトル分解すると、前方から後方および上方から下方の運動に言い換えることができます。
つまり、患者さんが「腕を前に挙げることができない」、「腕を前に挙げるときに痛みえを感じる」などと訴えがあった場合、徒手療法家は「上腕骨頭の前方から後方への運動と、上方から下方への運動が制限されているのでは?」と考えます。そして、それらの可動性に問題があれば施術の対象となります。だからと言って、可動域テストが必要ではないということにはなりません。
可動域テストの利点
可動域テストでは骨運動の制限を診ますが、制限因子は大きく3つ存在します。1つ目は関節構造の問題。変形や癒合がなければ、関節包内運動の制限として考えればよいと思います。2つ目は主動筋の筋力低下。3つ目はその運動の拮抗筋が伸びない、ということが確認できます。もちろん2つ目の筋力低下の確認は、筋力テストや神経学テストでその原因を探す必要がありますが、3つ目に関しては他動運動時の最終域感(エンド フィール)が参考になります。
また患者さん自身も、関節包内運動が良くなったと自覚するのは難しいですが、骨運動である「腕を前に挙げることができない」、「腕を前に挙げるときに痛みを感じる」というような、症状の改善には気づく患者さんは多いのではないでしょうか?
このように可動域テストと可動性テストを組み合わせて考えることで、施術しなければならない問題が理解できるようになります。もちろん、それらの可動性減少がどうして起こったのかも考えなければなりませんが、可動性テスト(MP)でわかるのは制限のある関節包内運動だけです。可動性テスト(MP)を行う際には、可動域テストを始め、問診・視診・触診の所見を踏まえていってみてはいかがでしょうか?
辻本 善光(つじもと・よしみつ)
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。
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