岡井健DCのI Love Chiropractic ! 臨床編
第5回「ギックリ腰への対応力」
カイロジャーナルの読者の皆さん、お元気ですか? 4月からスタートした月に一度の臨床報告の第5弾となります。今回と次回は腰痛にスポットを当てたいと思います。皆さんが毎日のように治療している中で、「腰痛のお悩み」を抱えている方は本当に多いと思います。ちょっとやそっとの腰痛は当たり前のことと、痛み止めを飲んでそのままにしているという人の、人口に占める割合はかなり高いのではないでしょうか。そんな人たちもギックリ腰と呼ばれる急性腰痛症になると、さすがに辛いし危機感を感じ、それこそ重い腰をやっとの思いで上げて来院してくれます。
私が大学を出たての新米ドクターであった30数年前に、動くのも大変なほど酷いギックリ腰の患者さんが来たときに、どうやって目の前の患者さんに対応したらいいのか全然わからず、戸惑ったことを記憶しています。まさに額に脂汗を浮かべ、少し体を動かすたびに、「うっ!」と辛そうに顔をしかめる患者さんに、自分が一体何をしてあげられるのだろうと思いました。
半年もすると、そのような患者さんが来ても驚くことはなくなりましたし、一応何とか対応できるようになりましたが、本当にしっかりと上手に対応できるようになったのは、やはり10年ぐらい経験を積んだ頃からでしたね。それでも今思い返すと、現在の自分に比べたら、まだまだ未熟だったと言わざるを得ないでしょう。今回は私自身の成長を思い返しながら、私流のギックリ腰の患者さんへの対処法を解説していきたいと思います。
まずは、ギックリ腰の患者さんからの予約の電話が入ったら、その方の状況を判断するために簡単に電話で問診を行います。いつ、どのようにしてギックリ腰になったのか、現在までの時系列での症状の変化、そしてクリニックまで来ることができるかどうかを聞きます。場合によっては、激痛で身動きが取れないのに、30分以上も車に揺られて来なければならない困難な状況もあります。そんなときは、無理に苦しい思いをして今すぐ私のところに来るより、自宅で適切な応急処置をして休んだ方がいいことを伝えます。痛みで不安な患者さんに、一体何が起こっているのかを説明し、適切な対処法を指示すると、患者さんは安心することができるし回復も早まります。
すぐに救急病院に行った方がいいという状況でなければ、私の指示する対処法が一番だと思います。救急に行くべきかどうかの判断は、痛みの強さで判断するのではなく、排尿排便のコントロールを失っているかどうかです。Cauda Equina Syndrome、日本語だと馬尾症候群と言われるようですね! このような場合は躊躇せずに救急に行くように指示します。因みに私の30年以上の経験で、このようなケースには一度も遭遇していないことは幸運なことです。それ以外のケースは、どんなに痛みが激しくても今すぐ救急に行く必要はありません。私の指示通りの応急処置をしても、より強い鎮痛剤が必要な場合だけ、かかりつけの病院で強めの鎮痛剤を出してもらえばいいと思います。
ギックリ腰の患者への 指示は、シンプルにかつ明確にします。このような強いギックリ腰の原因は、椎間板、筋肉、神経、関節包などの炎症が考えられますが、これらすべてが存在する場合が多いです。椎間板症には、椎間板が腫れた状態のもの、腫れて大きく膨らんでいるもの、またヘルニアになっているものと、いくつかのレベルがあることを説明しますが、いずれも急性時の痛みは似たようなもので、状態の違いにより回復のスピードに差が出ることを簡単に説明します。いずれにしても、痛みの原因となる炎症を抑えることが先決ですので、その方法を伝えます。
何と言っても大切なのは、アイシングです。アイスパックを持っていない方には、Ziplockなどのビニール袋にアイスと少量の水を詰めてアイスパックを作ってもらいます。患者さんの最も痛い部分を問診し、その部分はもちろんのこと、もし痛みの患部が臀部など背骨から離れている場合には、下部腰椎も同時に冷やしてもらいます。急性の場合は、痛みが強くて痛みの範囲がぼやけていますので、広い範囲でアイシングしてもらいます。回復に伴い感覚が戻りますので、よりピンポイントで痛みの場所を感じることができます。アイシングで重要なのは、思いっきり、しっかり冷やすということです。一般の方はほぼ例外なく快適な範囲で冷やします。これでは、このような急性の状態には不十分です。霜焼けにならない範囲で思いっきり冷たく冷やすことが大切です。快適な冷たさではなく、皮膚が痛いに近い冷たさです。これを毎時間につき10分間のペースで繰り返し、夜寝するまで続けてもらいます。しっかりとアイシング法を指示して、それを忠実に実行してもらうことが本当に大切なんです。詳しくは、9月8日のZoom セミナーで解説します。
アイシングとともに、必要ならイブプロフェンや鎮痛剤など手持ちの薬で痛みを緩和させることを薦めます。痛みはさらなる筋肉のスパズムを生むので、回復を遅らせます。何より患者さんの苦しみを軽減してあげないと、かわいそうです。慢性の痛みに鎮痛剤を常用するのは良くないですが、急性の痛みに短期間上手に鎮痛剤を利用することは悪いことではありません。
腰痛ベルトを上手に活用することも、患者さんの痛みの軽減と回復には役立ちます。これも慢性腰痛に常用すると、筋肉の弱化の原因になるという考えもありますが、急性の場合は積極的に活用するべきだと思います。ただ、装着する場所が悪い方がほとんどですので、お相撲さんのまわしの位置をイメージして、しっかり、きつく締めることを指示します。これも詳しくは、Zoomセミナーで再度紹介します。
以上のような応急処置とともに、常識的に腰に負担がかかるようことは絶対に避けてもらいます。長時間のベッドレストも悪化の原因となりますので、痛くても寝たきりにならないように指示します。くしゃみや咳も危険ですので、あまり豪快にやらないように伝えます。そして、少し動くのが楽になったら、次の日にでもすぐに来院してもらいます。
それでは、ギックリ腰で動くのも辛いという患者さんが、実際に来院したときの対処法を紹介します。まず問診を行いますが、それも患者さんが一番楽な体勢で行います。ときにはアジャストメント・テーブルの上に横になってもらい、アイシングをしながら問診をします。適切で十分な問診を、無駄に時間を費やさずにテキパキと行い、問題の原因の見当をつけます。この時点ですでに、何が原因で何をするべきかの筋道が私の頭の中で出来上がっています。それを確認する意味での必要最低限の理学テストや触診を行います。やらなくても異常がないとわかるようなテストを、いくつも行うことは患者さんを苦しめるだけです。
私のこの日の目的は、炎症の抑制と筋肉のスパズムの緩和です。間違っても患者さんを、魔法のように回復させて帰そうなどと頑張り過ぎないでください。あれこれ頑張って手を加えると患部を必要以上に刺激して、さらなる炎症の悪化を招きます。
私のクリニックでは物理療法をするので、低周波治療や温熱パックで短く10分ほどスパズムを緩和させます。患部をかばうために胸腰移行部の辺りもスパズムを起こし、腰痛の苦しみを倍増させていることが多いです。その部分は炎症がないので、積極的にスパズムを緩和させます。そして、短時間で患部の筋肉を軽く緩める施術をします。あくまでも、やり過ぎない軽めの施術の方がこの時点では効果があります。そして必要に応じて、患部の一か所だけを選択し素早いソラストでアジャストします。もし自分にその自信がない場合は、無理にこの状態でアジャストをすることは薦めません。もう少し時間をおいて、炎症が落ち着いて痛みが軽減されてからにしてください。
アジャストメント後に、すぐに10分間のアイシングをします。同時に胸腰移行部と腸腰筋はホットパックで温めます。その後に腰痛ベルトを私が患者さんに装着して、つける位置と強さを体感し、覚えてもらいます。そのときに、ほとんどの患者さんは楽になったと感想を言います。それで十分です。
最後に、自宅でのアイシングの仕方や、体の動かし方などの注意点を指示し、まだ炎症が進行しているかもしれないので、これから悪化する可能性も十分ある旨を説明します。もし痛みが増しても驚かずに落ち着いてアイシングをし、必要に応じて鎮痛剤を服用するのは構わないと伝えます。そして、のちほど電話で様子をチェックする旨を伝えます。通常は、翌日か遅くても二日後に再び来院してもらいます。ちゃんと私の指示通りに過ごしていれば、必ず少なからず改善しているでしょうから、カイロの説明、体が今どのような状況にあるのかの説明と、これからのケース・マネジメントについて説明し、本格的な治療を開始します。
いかがでしたか、急性の腰痛患者の対応は参考になったでしょうか? 落ち着いて自信を持って対応し、しっかりと患者さんに指示を与えることが大切ですね。間違っても急性の炎症に対して、治療のやり過ぎで悪化させることがないように、治療を抑える勇気と適切な判断力を持って対応してください。今回のケースについての質問などは、Zoomセミナーや10月の対面セミナーで受け付けますので、積極的に参加してくださいね。
9月8日開催!岡井健D.C.Webセミナー『ビタミン CHIRO』
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岡井健(おかい たけし)DC
福岡西陵高校を卒業後、1984年単身アメリカ、ボストンに語学留学。その後、マサチューセッツ州立大学在学中にカイロプラクティックに出会い、ロサンジェルス・カレッジ・オブ・カイロプラクティック(LACC)に入学、1991年に同校をストレートで卒業する。
1992年、カリフォルニア州開業試験を優等で合格。1991年から1995年まで、カリフォルニア州ガーデナの上村DC(パーマー大学出身)のクリニックで、アソシエート・ドクターとして勤務した後、サンフランシスコ空港近郊のサンマテオにて開業。2001年にはシリコンバレーの中心地、サンノゼにもクリニックを開業し、サンフランシスコ・ラジオ毎日での健康相談や地方紙でのコラム連載でも活躍。
また、積極的に留学中の学生たちの面倒を見、その学生たちの帰国を皮切りに日本での活動を始める。科学新聞社(斎藤)との縁は、2005年に出版した「チキンスープ・シリーズ カイロプラクティックのこころ」の監訳に始まり、以降15年以上にわたって出版物、マイプラクティス・セミナ、カイロ-ジャーナル記念イベントなど、またカイロプラクティック・クラブとして「ソウルナイト」(スタート時はフィロソフィーナイト)など、ありとあらゆる場面で協力関係にある。
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