代替療法の世界 第46回
「野イチゴ落とし」

吹き荒れる熊の被害

 日本列島が熊に悩まされている。悩みだけならまだしも、ケガや命まで取られている状況だ。一般のハンターだけでは手が足りなくなり、規則を改正して警察官がライフルで熊を撃てるようになった。古来、マタギと呼ばれる人々が熊の駆除を担当してきた。熊の専門家であり、類いまれな知識を持ち、その卓越した技術で狩りをしてきたのである。マタギの中に伝わる「野イチゴ落とし」。これは春先に冬眠を終えた熊が野イチゴを食べる際に、食べることに夢中になっている子熊を置いて、母熊がどこかに行ってしまうという行為である。強制的な子別れと言ってもいいだろう。もとい、自然界では子熊もいつかは独り立ちをしなくてはならない。だから、だまし討ちのような感じだが母熊は子熊を「置き去りにする」のである。子熊と母熊が別れる場所はマタギにとって格好の猟場になる。
 

構造、機能どっちが上だ?

 熊はこうした方法で独り立ちをするのだが、治療家はどうであろうか。弟子入りして患者さんを治療している最中に、師匠が姿を消すことはない。弟子とは言わないまでも、ある程度の経験を積んで独立というのが最も多いのではないだろうか。初期の頃のオステオパシー、カイロプラクティックは3カ月ほどの教育であり、それでオステオパス、カイロプラクターになれた。ずいぶん乱暴な教育だと思うが、草創期の治療術を伝える際には拙速すぎる方法も許容されていたのである。代替療法の世界 第42回「A.T.スティルの吐息」のコラムで構造と機能の重要性を、機能が上で構造が下であると書いた。平たく言えば、「構造<機能」と表現したのである。ものの考え方にはいろいろある。倫理を使って解釈したり、俯瞰的に物事を見たり、ラテラル シンキングと言って違う角度から検討したりと様々な方法を人類は構築してきた。こうした物の考え方は業種が違えども普遍的なものであり、代替療法特有の考え方ではない。ゆえに一般論にも置き換えることができるし、応用をすることも可能なのである。これらを踏まえた上で構造と機能を考察してみる。

まずはパターン分析から
1、構造 < 機能
2、構造 > 機能
3、構造 ≦ 機能
4、構造 ≧ 機能
5、構造 = 機能

 オステオパシーの教科書にある「構造と機能は連関する」を等式、不等式で表す。いろいろと構造と機能のことを論じても、パターンは上記の5つしかない。様々な考えがあろうともパターンはこれですべてである。私の主張は構造≦機能、構造<機能の2つのどちらかである。1つは、機能が構造より上回るが構造も機能の一部に含まれるというパターン。もう一方は機能が構造よりも上回り、構造は機能の一部に含まれない、となる。構造と機能の関係性は、この2つのどちらかだろう。がしかし、正解が何であろうとも、検査して治療して再検査という過程により、「構造が重視されるか、機能が重視されるか」は、あまり問題にならないのである。なぜならば「構造と機能は連関する」のであるから。「人類は、原理はわからなくとも対処法を構築してきた」と、漫画「葬送のフリーレン」でも主人公が述べていた。浮力の原理がわからなくても船を使ってきたし、飛行機がなぜ飛ぶのか、原理がわからなくても世界中を行き来している。対処することの重要性は、自分でそれなりの回答を出すという作業と同義である。それを構築できないと延々と独り立ちはできないのだ。そのための方法論の1つが論理的思考と言われるものである。
 

天使、悪魔、人間を探せ!!

 倫理的思考の問題を1つ解いてみて欲しい。読者は正しく探せるや否か。

前提条件
1、天使は必ず本当のことを言う(正直者)
2、悪魔は必ず嘘をつく(嘘つき)
3、人間はときどき本当のことを言うし、ときどき嘘もつく

 では前提条件を踏まえた上で、A、B、Cの人物にそれぞれ天使、悪魔、人間を紛れ込ませた。そしてA、B、C、のそれぞれのコメントは下記の通り。
A:私は天使ではない
B:私は悪魔ではない
C:私は人間ではない

 さて、ここで読者に倫理クイズを出そう。前提条件とコメントを倫理で検討していけば答えは出るので挑戦されたし。

Aは誰ですか?
Bは誰ですか?
Cは誰ですか?

 それぞれ検討していく。

A:「私は天使ではない」
1.天使だと仮定すると、天使は嘘をつかないので、「天使ではない」という文言は、天使としては嘘をつくことになるのでしゃべれない。となると、天使ではないという答えになる。
2.悪魔だと仮定すると、「私は天使ではない」と言っているので、悪魔であれば天使ではない=悪魔か人間かとなるので、本当のことを言っていることになる。悪魔は本当のことを言えないので、この発言は矛盾することになるので悪魔ではないということになる。
3.1.と2.で天使ではない、悪魔でもない、ということになりAは消去法で人間ということになる。

B:「私は悪魔ではない」
1.悪魔だと仮定すると、悪魔は必ず嘘をつくのでBは悪魔だとしても矛盾は生じない。
2.天使だと仮定すると、「私は悪魔ではない」は天使としては正しい発言になるので矛盾は生じない。
3.人間だと仮定すると、Aの検証で人間はAの人物であることが判明している。だとするとBは天使か悪魔かのどちらかになる。一旦Bの検証は置いておいてCの検証をする。

C:「私は人間ではない」
1.天使だと仮定すると、「私は人間ではない」という発言は、天使であれば本当のことになるので矛盾していない。
2.悪魔だと仮定すると、「私は人間ではない」という発言は、悪魔であれば人間ではないので本当のことであるので矛盾している。だから悪魔はこの言葉を言えない。よって、Cは天使になる。Aは人間、Cは天使となれば、残ったBは悪魔となる。

よって答えをまとめると
Aは人間
Bは悪魔
Cは天使
になる。
 

そこで、もう一丁!!

 さらにラテラル シンキング(水平思考)問題を1つ。

前提条件
1、あるところにテントを設営した。突然、熊に襲われてパニックになって逃げた。
2、そこから南へ10キロ移動した。
3、さらにそこから西へ10キロ移動した。
4、さらにそこから北へ10キロ移動した。するとテントを設営していた場所に戻った。

問題:熊の色は何色?
 水平思考(ラテラル シンキング)すれば答えは出る。回答と解説は次の投稿で!!

【引用文献】
「論理的思考問題」 ダイアモンド社 刊/野村裕之 著
 


山﨑 徹(やまさき・とおる)

はやま接骨院(高知県高岡郡)院長
・看護師
・柔道整復師
全日本オステオパシー協会(AJOA)京都支部長
シオカワスクールオブ・カイロプラクティック ガンステッド学部卒NAET公認施術者
 
看護師、柔整師の資格を有する傍ら、カイロプラクティックとの出会いからシオカワでガンステッドを学び、21世紀間際にスタートした科学新聞社主催の「増田ゼミ」 で増田裕氏(D.C.,D.A.C.N.B.)と出会ったことから、以後、氏の追っかけを自任し 神経学、NAETを学ぶ。現在は専らオステオパシーを学び実践しているが、これまでに 身につけた幅広い知識と独特の切り口でファンも多く、カイロ-ジャーナル紙から引き続き連載をお願いしている。

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