徒手療法の世界に身を置いて 第14回
問診 その2
前回も問診の話を少しさせていただきましたが、3つの「きく」を実行できても、施術につなげていくためにはその考察が重要な鍵となります。どう考えればいいのか? また、どう考えたら間違いが少なくなるのか? ということにポイントを当ててお話ししたいと思います。
問診における間違い1「表現の置き換え」
例えば、患者さんが手の症状を「ピリピリする」と表現した場合、術者がそれを痛みだと認識してしまうと、以後の問診で「手の痛み」という表現をしてしまいますが、実は患者さんの「ピリピリする」はしびれの表現として使っている場合があります。そうすると返答としては「痛みはありません」という答えになります。
ですから、例え患者さんの主観的情報を頭の中で医学的所見に置き換えたとしても、表現としては患者さんが使った表現をそのまま使うほうが問診がスムーズに進むだけではなく、間違い/勘違いも減らすことができます。
問診における間違い2「不確かな所見」
例えば、腰痛の患者さんで前屈すると腰が痛いという場合、徒手療法家の方は「前屈時の痛み=椎間関節の伸展位」にしがちです。
組織の問題にはそれぞれの組織損傷の特徴があります。捻挫(靭帯や関節包の損傷)は引き延ばされて起こる問題です。また、関節症などは関節が狭くなることで起こる問題です。
運動軸より後ろの組織は前屈によって延ばされていますから、直接痛みにつながっているのは、伸張時に損傷を受ける筋や結合組織からくる痛みということになります。関節や骨からくる痛みは軸圧や圧迫により起こりやすくなります。運動軸より後ろにある椎間関節は前屈時に広がりますから、直接痛みを出すことはありません。
椎間関節が運動のスタート時から伸展位にあれば、その上位の結合組織は最初から伸張ストレスが加わっていることになり、前屈運動によりさらに伸張ストレスが増し、伸張痛を発症することはあります。
しかし、椎間関節の屈曲位もそれより下位の結合組織に伸張ストレスを増大させ、前屈時に伸張痛を発症すれば結合組織そのものの損傷も伸張痛として現れます。
ですから、この例ではっきりとわかる所見は、伸張されたときに痛みを発症する結合組織に問題があるということだけです。
問診における間違い3「根拠のない思い込み(確証バイアス)」
前述の前屈時の痛み=椎間関節の伸展位という知識だけを持っている先生は、問診以外の検査でもその前提で検査を進めます。いくらそれが頭の中で辻褄があっていたとしても、患者さんの状態にあっていなければ、患者さんの症状を回復させるには至りません。
例え、たくさんのセミナーで知識や技術を得たとしてもです。こういった確証バイアスは極端な話、問診をする前から施術者の頭の中で起こっていて、問診そのものが形だけのものになってしまいます。その結果、患者さんから信頼を得ることもなく、ただただ自分の持っているスキルの披露で終わります。
患者さんを診るために必要な解釈/考察は前回も書かせていただきましたが、トレーニングにより身についてきます。そして、これらの解釈/考察のトレーニングとして「オッカムの剃刀・ヒッカムの格言・サットンの法則」や「ロジカルシンキング・クリティカルシンキング・ラテラルシンキング」を活用されてはいかがでしょうか?
※上記の法則等は「徒手療法家のための基礎講座 第1期 主な検査法」でご紹介させていただいています。
辻本 善光(つじもと・よしみつ)
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。
コメント
この記事へのコメントはありません。
この記事へのトラックバックはありません。