この人に会いたい 特別編《特別編》江崎健三社長、安藤喜夫D.C.「カイロプラクティック」を語る

今回の「この人に会いたい」は、特別編ということで、会いたくても今生では会うことのできない2人、江崎健三さんと安藤喜夫さん(安ちゃん)にご登場いただくことにした。

  • 安藤喜夫、1995年10月26日没、享年37歳。
  • 江崎健三、2008年4月4日没、享年58歳。

亡くなった年齢が示すように、江崎さんとは20年以上のお付き合いであったが、安ちゃんとは10年にも満たないお付き合いであった。しかし、どちらとも非常に浅からぬお付き合いをさせていただいた。

安ちゃんを紹介してくれたのが江崎さんで、ワシと同じ京都生まれでこんな男がおんねん、と自分のことのように自慢げに話していたのを、昨日のことのように思い出す。よっぽど好感を抱いていたのであろう。

江崎さんが亡くなって、あっという間にひと月が経つ。その突然の知らせに無類のショックを受けたと同時に、13年近くも経つ安ちゃんのときのことが鮮やかに蘇ってきた。亡くなった原因、年齢、場所と、同じことなど何ひとつないのに、その亡くなりかたまで一緒に感じられてならない。前日まで元気だった人が、ある日急に目の前から消え、会うことはもとより電話で話すこともできなくなってしまうのである。

しかし、悲しんでばかりもいられない。残っている私だけでも前向きに生きていかなけばならない。この2人が日本のカイロ界に残したものを、私が引き継いでいかなければならない。私の思い出の中にある2人ではなく、2人が言わんとしていたことを伝えなければ、と過去の資料を遡って探し始めたら、簡単に見つかった。それも、とっておきの一級品の資料である。

今から20年近く前に、創刊して間もない「カイロ・ジャーナル」第2号で対談していたのである。江崎さんが、どうしても対談でやらせてくれ、と実現したものであるが、今回再び読み返してみても、決して色あせるものではなく、十二分に読み応えのあるものである。

今回はこれを掲載する。こんな2人がいたことを、ぜひ記憶のどこかにとどめておいていただきたい。


カイロプラクティック ジャーナル第2号(1989年11月24日発行)より

米国ロイド社の日本総代理店である江崎器機(株)・江崎健三社長が、A&Iカイロプラクティックセンターの安藤喜夫DCにカイロプラクティックの現状と今後について聞いてみた。

日米制度の違いに驚き

江崎:先生はアメリカで勉強されてきたわけですが、日本に帰って来て、カイロプラクティックの現状がどう違うと思いますか。
安藤:まず、知ってはいたものの制度の違いに驚きました。アメリカではカイロプラクティックにも保険制度があります。レントゲンや臨床検査をして診断することも可能です。さらに社会的認知のされ方も日本ではまだ骨を“バキボキ”させるのがカイロというような認知をされていますが、そのへんも違いますね。
保険制度そして診断権がないため、アメリカのカイロプラクティックをそのまま日本に持ち込めないという点で、初めはとまどいました。しかし、治療のテクニック自体は日本の方が進んでいる面もありますし、日本は高齢化社会になってきて、今の医療体制に問題があることは社会全体に関わってきていますから、そのような状況の中でアメリカのカイロプラクティックを活かせたら、もっと日本のカイロプラクティックも伸びると思います。今でさえ追い越せる、素晴らしい治療家がいっぱいいるのですから。
その方法は色々と考えられるでしょうが、少数のDCだけが、これが本当のカイロプラクティックだと日本のものを否定するのではなく、派閥を抜きにして、日本のカイロプラクターに教育してゆくことだと思うのですが。
江崎:日本では臨床検査やレントゲンなどの規制がありますので、アメリカの教育を受けた立場として、やりにくい面もあると思います。そのへんはモーション・パルペーションを確実に行うなど、テクニックの面からカバーできるのでしょうか。
安藤:できると思います。日本ではすべて自分で診断できない状況なので、疑わしいものは専門医とコンタクトを密着に行い、話し合いをしてゆけばいいのですから。しかし、レントゲンや臨床検査ができないということはハンディを背負う反面カイロプラクティック的手技を使った検査技術は身に付くと思います。アメリカでは、その必要がないものまでレントゲンや臨床検査を過剰に行っている傾向も無きにしもあらずですから。その意味ではアメリカのカイロプラクティックも過渡期に来ていると思います。本来のカイロプラクティックとは何かという点に戻ると、日本のほうが勉強できますね。

江崎健三社長と安藤喜夫D.C.

高さ調節など全自動

江崎:先生はアメリカでコックス・テクニックを使っておられたそうですが、約半年前にご購入頂いたロイド社のギャラクシー・マクマニス・エレベーションと900HS(19インチ仕様)の二台の使用上の感想はいかがでしょうか。
安藤:ナショナル大学では卒業する一〜二年前からほとんどロイドテーブルに変えましたが、今使っているような高度な機種は初めてでした。私たちはテーブルに対して、アジャストする時のクッションの使いやすさなどを特に気にしますが、ロイド社のテーブルはクッションのウレタンなどの基礎的な部分がよくできていると思います。
また、カイロプラクターは患者の治療のために、自分の腰を痛めたりと身体を悪くしている人が多いものですが、高さ調節などすべて全自動でできるので、自分の身体を守る面でも役立つと思います。
江崎:ロイド社のマクマニス・テーブルは、昇降機能や屈曲運動の幅についても設定範囲が広いのですが、それについては…。
安藤:それらが全部自動でできるため、手動のものより患者に合わせて確実な角度でセットでき、治療の誤差が少なくなりますね。患者に合わせたスピードで屈曲させたり伸展させたりが自動的にできるのでもカイロプラクター自身も疲れないでいいですよ。
江崎:今まで手動で、勘に頼っていましたからね。
安藤:屈曲のスピード、伸展のスピード、そして牽引の強さ、必要な角度が設定されると、一回一回の屈曲運動が均等に与えられることがメリットですね。
江崎:そうすると価格的にも納得いただけるものでしょうか。
安藤:できますね。
江崎:マクマニスはいろいろな機能が付いていますが、例えばドロップ機能や胸部のブレーカーウェイなど。それらのもっと詳しい使用方法をいろいろと質問されるのですが、先生はどうお感じですか。
安藤:牽引というと従来からの単に引っぱるだけのイメージを受けやすいのですが、牽引というのは高度なテクニックです。牽引させて屈曲させて、それを間欠的に行ってゆくのは大変効果があるのですが、その反面危険なこともあります。ですから正しい使い方を知らないとマクマニスは使いこなせないと思います。
椎間板ヘルニアの治療にとっては、ドロップ機能やブレーカーウェイを利用して、いくらでもテクニックを工夫することができるでしょう。むやみに使うと危険ですが、教育面でも充実させながら普及させてゆけば、椎間板を治す醍醐味を味わえる機能を備えていますね。

販売と教育を並行

江崎:教育という点では、使い方がよくわからないから、マクマニスを使ってセミナーを開いてくださいと、よく言われるのですが、そのようなセミナーは私たちの範疇ではないように思うのです。ただ、今後の日本のカイロプラクティックを志す人に対して、系統的かつ持続性のある教育は必要でしょう。日本の現状では、大学などカイロプラクティックの学校がないので、各人が自覚を持って勉強しなければいけないですね。それについて何かアドバイスなりお考えを聞かせてください。

安藤:私は年間二十回ほどセミナーを持っているのですが、生徒の反応によって、こちらもいろいろ考えさせられます。というのは、難しいテクニックに入ってゆけばゆくほど、生徒それぞれが、椎間板、脊髄、靭帯などの基礎知識を持っているかいないかでそのテクニックを把握できるか否かが違ってくるのです。
牽引はとてもシンプルなものですが、いかに基礎を知っているかで、テクニックを使い分けることができるものでもあります。華々しいテクニックではなく、原点に戻って教わるためには、どこかで基礎を学ぶ場が必要ですね。教える側としても教えやすいですから。
でも今のところ悲しいかな基礎を教わりたくても、そういった機会や場が少ないのが現状だと思います。私もこれからはセミナーを行うにあたって、もう一度医学の基礎に戻ったものを作っていきたいと思うし、時期的にもそういった時に来ていると感じます。高度なテクニックに走るのばかりじゃなくて、基礎を見直すことで日本のカイロの底辺のアップ、カイロ全体のレベルアップが期待できるのではないかと思うのですが。もっと基礎が見直されればマクマニスの機能を使ったテクニックは伸びると思います。
江崎:私もただ売れればいいというような商売はしたくないと思っています。
安藤:いい機械を持ったからといって、いい治療ができるわけではないですからね。販売と教育が並行して進む必要があります。世間の人々や治療家に対して日本のカイロプラクティックの浸透の仕方は、いい部分と悪い部分とがありますし。
江崎:カイロプラクティックと病院が同じような立場になれば、患者のためにもなると思いますね。
安藤:患者はカイロプラクティックであれ、整形、按摩、指圧と何であれ治りたい一心で来ます。人間を全体としてとらえるカイロプラクティックを各分野の治療家が理解して、採り入れて欲しいですね。日本では職業間のコミュニケーションが不足していますが、だれのための治療なのかを考えてみれば、それは必要なことだと思います。

体制を作り上げて
基礎医学勉強の機会を

江崎:患者の立場に立った場合、料金面では一回につき何千円かかります。保険制度に慣れている日本人に、それは抵抗感があると思いますが、保険は毎月個人が一万何千円か負担し、会社も同額負担しています。年間で四十万円近くの保険料を払っているわけです。カイロプラクティックの治療で年間四十万円いくことはなかなかないです。ふつうの会社員は、会社を抜けて病院に行っても給料をもらえますが、自営業だと休んだ分は確実にその分の収入はなくなります。保険に入っていても、長く待たされる病院には行きにくいと思います。
安藤:病院で二時間ほど待たされて、三分診察、薬ばかり多量にもらって、病状の説明やアドバイスもない。貴重な時間を割いて通院して、治ったかというと治ってない。それから考えると、私たちカイロプラクター三分間診療よりずっと有益なことをしていると思います。三〜四千円でも私たちは、誠意を持って治療費に見合ったことをやっています。ですから、そのような治療を求めている人は「安いですね」とおっしゃってくれます。トータルで考えると満足してくださる患者さんは多いですね。

広くコックス技術を

江崎:ところで、来年十月か十一月頃に愛知県犬山市で日本で初めてコックス・テクニックのセミナーがJCAの主催で開催されますが、コックス・テクニックの日本における位置付けはどうお思いですか。
安藤:コックス・テクニックはオステオパシーの世界から入ってきた牽引方法ですが、日本のカイロプラクティックの中で、かなり重要な部分を占めてくると思います。コックス・テクニックが入ってくると、日本のカイロプラクターの基礎知識がとても問題になるでしょうね。そうなると日本のカイロプラクティックの現状も変わってくるかもしれません。私もセミナーで、Dr.コックスの技術を広めたいです。
江崎:そのセミナーについてですが、JCAが主体になって開催されることが多いのです、現在のところ。しかし、組織には入りたくないが勉強はしたいという人が多いのです。組織の壁を取り払って、そのような人たちを拾い上げるセミナーは開催できないものかなと思うのですが。
安藤:カイロプラクターそれぞれのレベルに合わせたセミナーは多く開くべきだと思います。それを抑制する状況だと、カイロプラクティックは発展しないでしょう。今はそのあたりを模索している段階かもしれません。
江崎:体制が出来上がっていないことが一番の原因かもしれませんね。そのせいか、勉強したいという人でも、基礎医学への認識は弱いような気がします。
安藤:カイロプラクティックはイコール、カイロテクニックというイメージが日本では強いと思います。しかしテクニックのみを考えている人は伸びないと思います。基礎医学を学ばないで、テクニックに走っているカイロプラクターは制度化されたされた時、自然淘汰されるでしょう。除かれてゆく人が少しでも減るように、もっと基礎を勉強できる機会を与えるべきですね。
江崎:そのあたりは現在不十分ですね。
安藤:基礎医学を知って初めていろいろなバリエーションテクニックを使い分ける能力が身に付きますから、カイロプラクターとして、それを知るのは義務だと思います。
江崎:それには宣伝が大切ですね。技術というピラミッドの底辺をしっかりしておかないと、高く積み上がらないことを、もっと認識してもらうようにしなくてはいけないですね。
安藤:その認識はされ始めているように思いますが、認識していない人は制度が出来たら、多分大変なことになるでしょうね。
江崎:そうですね。今日はありがとうございました。

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