岡井健DCのI Love Chiropractic ! 臨床編
第6回「腰椎の狭窄症を考える」

 カイロジャーナルの読者の皆さん、お元気ですか? 4月からスタートした月に一度の臨床報告も、いよいよ今回で最後の第6弾となりました。このシリーズが一人でも多くの先生方の、治療のヒントや考えるきっかけとなったなら幸いです。それでは、今回は腰椎の狭窄症について考えていきながら、私なりの治療法を解説したいと思います。

 腰椎の狭窄症とは何かということを、ここで改めて説明する必要はないかもしれませんが、簡単に説明します。腰椎の狭窄症というと、その大部分は第4、第5腰椎で起こります。ひとくちに狭窄症と言っても、狭窄が起こる場所は大きく分けて3か所あります。まずは脊柱管内で起こるものと脊柱管外で起こるものに分かれます。脊柱管外で起こる場合は、椎間孔での骨の変形や椎間板の変性が原因となります。脊柱管内では中心部で起こるものと、椎間孔へと向かう脊柱管内の外寄りで起こる二つの場合があります。

 中心部で起こるCentral Stenosisは、椎間板のヘルニアなどの椎間板の問題や、肥厚化した靭帯により脊髄が圧迫を受けるものです。もう一つは、Lateral Recess Stenosisと呼ばれるものです。脊柱管内の外側に近い部分で、炎症や変性を起こした椎間板、椎間関節の変性などに神経根が圧迫を受けるものがあります。狭窄症には、神経根と脊髄のどちらか片方が圧迫を受けているケースもあれば、両方が圧迫受けている場合も当然あります。レントゲンや整形外科テストだけでは、種類の正確な判別は無理です。やはりMRIが必要となるでしょう。馬尾に圧迫がかかり、排尿、排便のコントロールが利かない場合はCentral Stenosisだとわかりますが、それでも神経根への狭窄も同時に起こることは珍しいことではありません。

 代表的な症状は、腰痛はもちろんですが、足の痺れや足の筋肉の引きつりは特徴的で、ある程度の距離を歩くと足が痺れたり、つったりしてきて、しばらく休むとまた歩けるという断続的な症状が出ます。また腰を伸展させると狭窄度が増し症状も増して、屈曲で腰を丸めると楽になるという特徴があることは、皆さんもご存じでしょう。このような構造的なメカニズムを理解するところから治療法が考えられます。

 骨の変性の度合いや馬尾への影響度で、手術が回避できないケースもあるでしょうが、大多数のケースでは手術を回避する治療が選択されるでしょう。私たちには、一体何ができるのでしょうか、いや何をするべきなのでしょうか。

 私が最初に考えるのは、どうすれば第4、第5腰椎の関節の動きを改善できるかということです。同時に伸展などによる余計な神経根への負荷をかけずに、それを行いたいということです。起立筋や腸腰筋などをはじめとした、腰椎を取り巻く深層部の筋肉を緩めることから始めます。これらの筋肉は、事の発端となる原因の大きな部分を占めるものです。サブラクセーションや椎間板ヘルニアに至る原因であったとも言えます。私は物理療法も行うので、低周波や温熱パックで筋肉を緩めます。側臥位で腰を少し丸めた体勢か、腹臥位でASISの下にロール枕を置いて腰仙移行部が屈曲するようにして行います。

 物理療法の次のチョイスは、腰の筋肉のストレッチを行います。側臥位で腰椎のアジャストを行うときのようなポジションを取ってもらいます。ここでは説明をわかりやすくするために、患者の左を上にした側臥位の場合を仮定します。腰仙移行部が伸展に反らないように少し屈曲させた状態で、施術者の左手で患者の左肩の前にコンタクトして支え、右手で仙骨を覆うようにコンタクトし、右手指先を仙骨底に引っかけるようにします。左手で肩をしっかりサポートし、右手と右前腕で患者の骨盤を腰椎から引き離すような牽引をかけながら、腰を軽く捻じるようにストレッチします。腰仙移行部が丸く屈曲していくイメージを持って行います。腸腰筋や殿筋群、腿の筋肉のストレッチも有効です。

 次に腰椎のモービリゼーションをしていきます。そのままの側臥位で行います。施術者の左腕を患者の左腕の下に通し、曲げた肘同士がしっかり組み合うようにします。さらにその左手指先で患者のL3の棘突起を固定し、右手指先でL4の棘突起にコンタクトして、引き離すようにします。右前腕で先ほどのストレッチ同様に骨盤を少し手前に捻じりながら牽引をかけるようにします。指先で腰椎同士を軽く捻じりながら引き離すような動きをつけていきます。腰椎を1個ずつ順番に下がりながら行い、3、4回繰り返します。これも腰仙移行部が屈曲するようにして、腰が伸展するのを避けます。ストレッチとモービリゼーションは両サイドから行います。

 仰臥位でのモービリゼーションも行います。患者の両膝を揃えて抱えてもらうようなポジションに持っていきます。膝を患者の胸の方に近づけるようにして、L4から腰仙移行部が屈曲の弧の頂点になるようにします。施術者は、患者の両膝をテコとして使い、両膝を左右や斜めに動かしたり、円を描いたりして腰椎を緩めます。患者には、患部に手を当ててから「今から膝を動かしてこの部分を緩めたいので、十分にこの部分の力を抜いて、『緩め、もっと緩め!』と思いながら力を抜いてくださいね」と指示を出します。1~2分も行えば十分でしょう。

 次に、伏臥位でのマニュアルの牽引をかけます。私はフラットテーブルしか持っていないので、患者の股関節の下にロール枕を挟み、腰仙移行部が屈曲するFlexionポジションをつくり、患者の頭頂側に立ち手のベース(手のひらの付け根の部分)で患者の仙骨底にコンタクトして、自分の体重を利用して牽引をかけます。10秒ほどの牽引を徐々に圧力を増しながら5、6回繰り返します。

 最後に一番大切なアジャストメントについて解説します。腰椎が後方変位を起こしている場合は、やはりそこをアジャストしたいですが、ソラストによって腰が伸展に反ることは避けなければいけません。矛盾した条件を可能にするためには、側臥位で患者をセットアップするときに、通常より腰が丸まった屈曲の形でポジショニングをすることが大切です。腰椎の椎間関節を広げてあげるイメージを持つといいと思います。この屈曲を保ったまま、アジャストする椎骨だけを素早く射貫くようにアジャストします。このときも一つ上の椎骨との椎間関節を広げるイメージでソラストします。それを可能にするためにも、私独特の腰椎の棘突起に第3中手頭骨頭コンタクトでコンタクトして、手のベースで仙骨を押さえて仙骨が屈曲方向に動くような力をかけます。

 ソラストのベクトルは、直線的ではなく小さな弧を描くように、手首のテコを使ってHigh Velocity Low Amplitude(HVLA)、すなわち素早く浅めのソラストをします。コンタクトハンドの手底で、仙骨を屈曲方向へ動かしながら、第3中手骨頭で腰椎の棘突起を前方にアジャストすることが可能になります。このようなイメージを明確に持ってアジャストすると上手くいきますが、通常の後方変位を真っ直ぐに押し込むようなベクトルのアジャストでは、さらなる狭窄を生んでしまうので痛みが増してしまいます。腰を反らすと痛みが増す患者が、アジャストメントを受けると腰がさらに痛くなったというケースでも、私のアジャストメントを受けると痛くならないばかりか、調子が良くなるというのは、ちゃんと問題のメカニズムを理解して、それに合ったアジャストメントをするからです。

 狭窄症の治療法は対面セミナーでも説明しますので、10月のマイプラクティスに参加してくださいね。さて、私の臨床シリーズはいかがだったでしょうか。またやって欲しいという要望が多数寄せられれば、また来年もやるかもしれません。私がまたやりたくなるように、皆さんも積極的にセミナーに参加してくださいね。

 

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岡井健(おかい たけし)DC
1964年7月4日、東京生まれ。福岡育ち(出身はこちらと答えている)。
福岡西陵高校を卒業後、1984年単身アメリカ、ボストンに語学留学。その後、マサチューセッツ州立大学在学中にカイロプラクティックに出会い、ロサンジェルス・カレッジ・オブ・カイロプラクティック(LACC)に入学、1991年に同校をストレートで卒業する。
在学中はLACCでのディバーシファイド・テクニックに加え、ガンステッド、AK、SOTと幅広いテクニックを積極的に学ぶ。
1992年、カリフォルニア州開業試験を優等で合格。1991年から1995年まで、カリフォルニア州ガーデナの上村DC(パーマー大学出身)のクリニックで、アソシエート・ドクターとして勤務した後、サンフランシスコ空港近郊のサンマテオにて開業。2001年にはシリコンバレーの中心地、サンノゼにもクリニックを開業し、サンフランシスコ・ラジオ毎日での健康相談や地方紙でのコラム連載でも活躍。
2022年8月に27年間経営したカリフォルニアのクリニックを無償譲渡し、2022年9月よりハワイ島コナに新たにクリニックを開業。庭仕事、シュノーケリング、ゴルフを楽しんでいる。
また、積極的に留学中の学生たちの面倒を見、その学生たちの帰国を皮切りに日本での活動を始める。科学新聞社(斎藤)との縁は、2005年に出版した「チキンスープ・シリーズ カイロプラクティックのこころ」の監訳に始まり、以降15年以上にわたって出版物、マイプラクティス・セミナ、カイロ-ジャーナル記念イベントなど、またカイロプラクティック・クラブとして「ソウルナイト」(スタート時はフィロソフィーナイト)など、ありとあらゆる場面で協力関係にある。

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