痛み学NOTE《第7回》
「慢性痛には2つのタイプがある」

カイロジャーナル66号 (2009.10.16発行)より

急性痛と慢性痛という分け方がある。どこがその分岐点かと言うと、一般的には痛みの発症からの期間で分けている。米国政府研究班がまとめた「急性腰痛のガイドライン」ではマニピュレーションをBランクの効果と判定したが、そこでは6ヶ月をその境界にしていた。ところが、2~3週間から数週間で治癒する急性疾患も多いわけで、必ずしも6ヶ月が目安になるとは限らない。大体、急性痛と慢性痛を期間で分けることに意味があるのだろうか。確かな意味など何もないように思える。

「慢性痛はどこまで解明されたのか」より

 

急性の痛みは生体の防御・警告系とされ、身体を傷害や危害から護るために不可欠の生得的システムであるが、通常は一過性である。基礎疾患が治れば、痛みも消えるはずなのである。ところが、痛みが持続する所謂「慢性痛」とされる痛みは、更に2つのタイプに分けられる。

ひとつは急性痛が単に長引いている「慢性痛タイプ」で、もうひとつは神経に可塑的変化が起きた「慢性痛症」である。「慢性痛症」は組織の傷や炎症が治癒したにもかかわらず痛みが持続する痛みで「神経因性疼痛」とされている。この二つのタイプの発症メカニズムは全く違うが、明確にタイプ分けをするのも臨床的には難しい。急性痛と慢性痛の区別は、単なる痛みの期間で分類できないものがあるからだ。臨床的には、治療に対する反応で区別する他ないのかもしれない。つまり、遷延している痛みでも急性痛の治療方法で治癒することもあり、早期の痛みでも既に神経の可塑性が作られて難治性のケースもある、ということになる。

それでも純粋な慢性痛症のタイプである神経因性疼痛が、高率で発生するとも考えられない。印象的にではあるが、慢性痛には多くの遷延された慢性痛のタイプが含まれているように思える。だとすれば、「侵害受容性疼痛」が多分に混在しているのではないだろうか。

では、なぜ除痛に失敗したのか、という疑問が残る。おそらく、その痛みの病態が捉えきれていないか、侵害された受容器の見落としか何かがあるのだろう。兎にも角にも、慢性的な痛みに悩まされるのは辛いことである。ましてや神経が歪む神経因性疼痛の病気になったら、もっと不幸なことである。痛みは、警告系の役目を終えたら消えなければならないのだ。慢性痛症になる前に、出来るだけ早く痛みを取り除くこと。これを痛み治療の大原則としなければならない。

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