徒手療法の世界に身を置いて
第40回「可動制限は骨/関節だけではない」

 関節機能障害を扱っていると、関節にばかり目がいってしまいがちですが、関節の運動制限は関節そのものの問題だけとは限りません。
 

関節が動かない

 理学療法の分野では関節が動かない原因を3つに分類しています。1つ目は関節の構築学的問題、脱臼や骨折、または癒合や変形などにより、関節構造に問題がある場合です。2つ目は働筋の筋力低下。3つ目は働筋に対する拮抗筋の伸長性の欠如です。それぞれ問題となる組織は、骨/関節、筋、結合組織となります。
では徒手療法の分野ではどうでしょうか?
 

2種の関節機能障害

 関節運動には2種類あり、1つ目は骨運動です。これは通常、屈曲や伸展など運動方向で表現され、骨がどの方向に動くのかを意味します。2つ目は関節運動です。関節包内運動とも呼ばれ、これは骨運動が起こる際、関節面にどのような運動が生じているのかというもので、転がり運動やすべり運動と表現されます。
 
 徒手療法家が施術の対象にするのは、この関節包内運動と呼ばれる関節面の動きです。
 

徒手療法家が考えるべき可動域の制限

 関節が動かない原因、1つ目の関節の問題では、構造的な問題があるのかを、先ず念頭に置いておくべきです。その上で機能的問題(関節包内運動)を検査していきます。

 2つ目は筋力低下の問題では、この筋力低下が神経学的問題により起こっているものなのか、また筋の不活性(例えば廃用性萎縮)が原因なのかどうかによって、施術の方向が変わってくるでしょう。

 3つ目は拮抗筋の問題では、上記の2つに比べて圧倒的に見落とされやすい問題です。動く、動かないということだけに気を取られると、まずわからないし、筋スパズムが筋力低下を誘発するのは、よく目にする臨床所見ですが、同様に筋が伸びないということを意識しなければ、これらを見つけることはできません。

 これらの見落としをなくしていくためには、エンドフィールをきちんと理解し、日頃の施術時に注意を払うことが大切です。自分が思ってもみなかったところに、新しい施術ポイントが見つかるかも知れません。

 確かに関節機能障害を施術すると、筋や結合組織が緩むことがありますが、慢性化したものはすぐに緩むとは限りません。ぜひ一度、確認してみてください。
 


辻本 善光(つじもと・よしみつ)

現在、辻本カイロプラクティックオフィス(和歌山市)で開業。
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。

 


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