徒手療法の世界に身を置いて
第23回 似て非なるもの

 皆さん、世の中に似て非なるものは数限りなくありますが、筋力テストもその一つです。

・徒手療法で使われる筋力テストは2種類

 徒手療法の臨床でよく使われる筋力テストですが、筋力とは筋収縮力,筋持久力,それとそれらの掛け算になる筋パワー(仕事量)から構成されます。理学検査などで使われる筋力テストは、運動神経の状態や筋そのものの状態がよく把握でき、それらを量的・質的に評価していきます。なので、単純に言えば力比べ(抵抗の強さを変える)ということになります(実際は練習して、練習して、練習して、やっと使えるようになりますが)。

 それに対して徒手療法で使われる筋力テストは、検査の際に抵抗の強弱を変えるというよりも、筋を伸ばすように検査します。これによって伸張反射を利用し、筋の収縮力を確認します。イメージとしては腱反射のように一度伸ばして、それに対しての筋の反応を見ているということになります。筋からの感覚神経と(伸ばされた)刺激に対する、運動神経の反応を反射弓として検査しているわけです。なので、強い抵抗は必要がないということになります。

・違いがわかれば、使い方が変わる

 2つの筋力テストの違いがわかれば、患者さんの状態に合わせて、どちらのタイプの筋力テストが必要かが区別できるようになります。例えば、触診で明らかに筋肉が痩せている場合は、理学検査で行われるような筋力テストが必要になってきます。

 それに対して「萎縮まではないけども…」という場合は、伸張反射を利用する機会が増えてくるでしょう。例えば、いくら施術しても状態が変わらない患者さんが、筋トレだけで改善していくこともあるのです。

 このように2つの筋力テストを使い分けることで、患者さんの回復にも影響してきますから、ケースバイケースで使い分けていく方が良いと思います。また、そのためにまずは2つの筋力テストの違いを勉強しておく必要があります。

・似て非なるもの

 以前は、バキバキ、ボキボキする動画がYouTubeなどでよく出ていましたが、最近またまたカイロプラクティックなどの矯正動画を見かけることが多くなりました。カイロプラクティックは矯正時にバキッと音が鳴ることがありますが、脊柱(背骨)を鳴らすことが目的ではありません。見た目が似ているからと言って、それがカイロプラクティックとは限りません。例え看板にカイロプラクティックとあっても、です。

 「同じやん、どこが違うん?」などと見た目ではなかなか伝わらないことも多いですが、その中身や目的が全然違ったりします。とりわけ、検査においては筋力テストがその代表といえるでしょう。

 前述しましたが、是非2つの筋力テストの違いを勉強して、臨床に反映できるようにしてください。


辻本 善光(つじもと・よしみつ)

現在、辻本カイロプラクティックオフィス(和歌山市)で開業。
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。

 


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