代替療法の世界 第5回「武医同術」

「今ここ」に集中しよう 変化の中に活路求めて

「変化できる者が生き残る」と、進化論を唱えたダーウィンは言った。我々治療家にとって生き残ることは経済活動が順調に行われて行く事を指す。経済活動と言っても、単に患者が来るか来ないかの話である。需要と供給の関係で、患者にとって必要とされていれば食っていけるし、必要とされなければ自然淘汰されるだけだ。武士は食わねど高楊枝というわけにはいかない。余力があるうちに見切りをつけて次の手を打つのも、変化に対応するということだ。本紙(カイロジャーナル本紙)の休刊もその一つである。

変化とは状況に対しての対処方法を変える事である。歴史から学べば明治維新がそれだ。黒船の来航とともに武士の生活は一変した。平和な世の中から剣が必要とされる様になった。薩摩藩士は示現流と薬丸自顕流を修行した。特に下級武士では薬丸自顕流が隆盛を極めた。

 

愚直な剣技

薬丸自顕流には多くの型は存在しないので容易に独習が出来たのである。下級武士は禄が低いので十分な謝礼を払えなかったために独習できる薬丸自顕流は都合がよかったのである。基本は横木打ちと言われる稽古を朝夕何千回と行い太刀の威力を増す。単調な稽古を愚直に繰り返すことで剣技を内在化させるのである。トンボと呼ばれる剣先を頭上に高く振り上げる位置から、猿叫(えんきょう)といわれる独特の掛け声とともに上段から一気に振り下ろすのである。

また防御も存在しない。斬られる前に斬れ。初太刀に全身全霊をかけたのである。志士にまず重要なのは生き残る事。それには生死に集中しなければならない。幕末の動乱において生死は常に隣り合わせだが、これほどまでに勝負のあやを集中力で補う剣術はそうそうない。薬丸自顕流は強かった。事実、新選組も手こずり、近藤勇は薩摩藩士の初太刀は何が何でも外せと隊士に忠告した。

 

禅マインド

その一方で武力一辺倒ではなく精神性にも重きを置いた。禅である。殺伐とした命のやり取りの中でも自らを内観することで心のバランスを保とうとしていたのである。禅では瞑想をよく使う。また瞑想には色々な効果がある。例えば伝説のオステオパスであるロバート・フルフォード博士も瞑想を普段の生活に取り入れることにより治療に生かしていた。またバイオダイナミクス創始者のジム・ジェラスDOは『禅マインド ビギナーズ・マインド』(サンガ新書)を推奨する。治療家にとって重要な指針を与えてくれる本だ。

 

禅マインド ビギナーズ・マインド

思い込みや、思考のクセは治療にとって邪魔になる。禅は初心者の心は全ての道に通ずるものであり空っぽであるという。空っぽであるがゆえに治療を妨げる事柄を無くすことが出来るのである。禅は様々な方法を用いて初心を保つ重要性を教える。本紙でもおなじみのプラユキ・ナラテボー師の手動瞑想なども手軽に意識を集中させることを鍛える方法である。

殺すことと治すことはずいぶん隔たりがある。しかしながらコインの表裏のように背中合わせなのである。両者に共通するのは「今、ここ」である。武術と禅という方法論の違いはあっても、集中力の重要性を説いているのだ。薬丸自顕流では基本稽古を通じ、無意識レベルでの剣技を体得する。また禅でも同じく集中力をいかに持続させるかに重きを置く。集中と基本の繰り返しが治療家にとって必要なのである。それに熟達すれば自動書記のように無意識下での治療が可能になる。ベテランのオステオパス達が基本の重要性を説くのもその表れであろう。

新しい風

オステオパシー業界に目を向けると、近年様々な団体が欧州や米国から講師を招きセミナーを開催している。幕末の様に新しい風が吹いているようだ。将来TPPに加盟すれば医療環境も変化する。医療業界全般も影響を受ける事は必至であろう。

世界カイロプラクティック連合(WFC)が一般治療家を対象とした海外講師のセミナーを認めないことが、日本のカイロプラクティック業界の弱体化につながった。オステオパシー業界が今後どうなって行くかは知る由もないが、同じ轍は踏まないように望むだけだ。どちらにしても肝心なのは生き残る事である。「今、ここ」に集中すれば活路を見いだせるだろう。


山﨑 徹(やまさき・とおる)

はやま接骨院(高知県高岡郡)院長
・看護師
・柔道整復師
全日本オステオパシー協会(AJOA)京都支部長
シオカワスクールオブ・カイロプラクティック ガンステッド学部卒NAET公認施術者
 
看護師、柔整師の資格を有する傍ら、カイロプラクティックとの出会いからシオカワでガンステッドを学び、21世紀間際にスタートした科学新聞社主催の「増田ゼミ」 で増田裕氏(D.C.,D.A.C.N.B.)と出会ったことから、以後、氏の追っかけを自任し 神経学、NAETを学ぶ。現在は専らオステオパシーを学び実践しているが、これまでに 身につけた幅広い知識と独特の切り口でファンも多く、カイロ-ジャーナル紙から引き続き連載をお願いしている。

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。