代替療法の世界 第35回
「見た目が9割」 第4回SCIエッセンシャル講座 『骨盤論―ゆがみのエッセンスー』

見た目がすべて?

見た目が9割とは、言葉によらないコミュニケーションを指す。見た目である顔の表情であったり、声の質、大きさ、テンポなどである。話の内容は意外に10%以下なのである。行動にも同じことが言える。見分けられるジェスチャーや、見分けられない微細なジェスチャーがある。どちらもコミニュケーション・ツールとしてお互いに感じているのだ。それは言葉よりも雄弁に語る。徒手療法ではこの見た目が9割という法則はどうであろうか?

 

流派ごとに治療法が

徒手療法に限らず、視診というものがある。これは字面のままであり、「見て診断する」というものである。見た目を重要視するならば、この方法に勝るものはないだろう。仙腸関節を一例に論じていこう。徒手療法に携わる者で仙腸関節のことを知らない者はいないだろう。カイロプラクティック、オステオパシー、整体、それぞれの流派は違えど、それぞれに診断、治療法がある。徒手療法の世界では治療対象になっている仙腸関節であるが、メディカルの方ではメジャーな治療部位ではない。むしろ仙腸関節は不動関節で治療対象にならないとされていることが多い印象だ。

 

異常を知るには・・・

仙腸関節はカイロプラクティックを俎上に挙げても、その流派ごとに治療術が違う。「関節の構造を考えると、もっと普遍的な方法があっても良いのではないか?」と吉岡一貴氏(よしおかカイロプラクティック研究所)は言う(以下、吉岡氏)。では、なぜ吉岡氏がそういう主張をするのか。どういった経緯でその考えに至ったのであろうか。

もとからの科学的思考とともに、業界での経験がそれらを形づくっていったようである。吉岡氏は柔整の免許を取得したあと、整形外科に勤めた。整形外科での経験は、いろいろな障害を持つ患者ばかりで、X線写真を見る目も肥えていく。その様子を見ていた院長が「正常がわかっていないと、いくら病理を見ても意味がないよ」と。この言葉は吉岡氏に刺さったようで、セミナーでも随所にこうした考えが散見される。

 

第一人者、誕生秘話

今では仙腸関節と言えば吉岡という代名詞がピッタリなのだが、吉岡氏がここまで仙腸関節にのめり込むきっかけは何だったのであろうか。開業を考えたときに、このままでは開業しても厳しいかもしれないと思い、パシフィック·アジア·カイロプラクティック協会(PAAC)付属ユニバーサル・カイロプラクティック・カレッジ(UCC)の門を叩くことになった。ひと通りの技術は学んだのだが、ここでも引っかかるのは整形外科でのひと言であった。

カイロプラクティックの中にはいろいろなテクニックがあり、それぞれの理論背景が違う。当然ながら理論背景が違えば治療法も違う。異常な状態を正常な状態に戻すためには、正常を知らなくてはならない。しかしながら、カイロのテクニックは異常な状態を治すためのもので正常には触れない。もとい、サブラクセイションは丁寧に教えてくれるのだが、正常との違いは明確ではなかったのである。何かが違うとは思いながらも卒業を迎えた。

 

知れば知るほど、わからない!?

ひょんなことからUCC講師を任された吉岡氏、立場は人を変える。何かが違うという思いは持ち続けながらも、教えなくてはならない。仙腸関節の講義はカイロプラクティックの学校では必要不可欠であり、吉岡氏もそれを教えることになった。教えるにはネタ元となる本や文献を漁るしかない。いろいろな書物に当たるが、正常と異常という視点から仙腸関節を眺めてみても、いまいちしっくり来なかった。ここから吉岡氏の探求が始まる。メディカル、徒手療法など古今東西の文献を読み漁ったのだが、確信が持てるようにはならなかった。仙腸関節のことは、世界の誰一人としてわかっていない、ということがわかったのである。この発見は大きかった。

 

吉岡メソッドに触れる

仙腸関節の矯正方法はテクニックの数だけ無数にある。でも、その根本原理には共通項がない。これは世界中の文献が証明している。では「見た目」が一つの切り口にならないだろうか? 一例を挙げるとモーション·パルペーションは個人間の差が大きい検査であり、誰がやっても同じ結果は出ない。先の「見た目が9割」を検査に応用できないだろうか。少なくても多くの人が共通項として認識できるはずである。との確信を持ち、左右差、ひいては利き腕との仙腸関節の関係性を研究してきたのである。

吉岡氏の仮説のポイントは3つ。1.骨盤帯の運動には利き手に応じた左右差がある。2.仙腸関節の運動。3.仙腸関節の運動軸は弓状線。詳しく知りたい方は、カイロジャーナル·ドットコムに申し込んでもらえれば、動画も視聴できるし資料も手に入れることができる。最初は資料を見ずに視聴することをオススメする。まずは先入観なしに観てみることが肝要である。講義では吉岡氏の仮説をわかりやすく動画を交えて観ることができる。

 

科学も99%は仮説

科学は仮説からでき上がっている。まことしやかに信じられていることも、そのほとんどは仮説である。であるから新しい仮説が、それらしいという共通認識ができれば仮説は上書きされていく。そういう意味では、吉岡メソッドは、「仙腸関節は動かない」というアンチ派の意見、論証が大好物なのだ。同業者向けには「君はPIを見たかい?」と刺激的に問う。その根底にあるのは、多角的な視点から仮説を検証してもらいたいという考えである。より多くの人が検証すると、それだけ理論的な構築がより良い形で完成していくのである。

吉岡メソッドは誰がやっても同じ分析、同じ治療ができるというのが売りだ。この誰がやってもというのがポイントで、科学的に見て、おおよそ間違いないという仮説があるから成立するのである。吉岡氏は「長い間研究してきたのだが、なかなかバズらない」と言う。確かに仙腸関節の件で大盛り上がりした記憶はない。一部のメディカルや徒手療法の間では取り上げられてはいるが。対立する概念は発展を生む。どちらにしても今後、盛り上がるにはアンチ、賛成派含めて活発な議論が必要であろう。

 

メインはウェブ飲み会?

このSCIエッセンシャル講座、終了後は恒例の、というか勝手に飲みたい人が残るシステムになっている。セミナー後の方が講師もリラックスするし、役目を終えた安堵感からかセミナーでは聞けない話も聞ける。運営側はこの時間も講座の一部と思っているのでは···。そうした斎藤氏の気遣い、いや本人がここを一番楽しみにしているのかも知れないが、どちらにしても楽しい話やためになる話が聞ける。例えば妊娠と骨盤の関係なんかは非常に示唆に富む。そのウェブ飲み会で、気学の造詣に深い受講生が吉岡氏に「吉岡先生は藤井風と激似ですね」と言うと、「顔が?」と答えていた(マジか!)。いくら見た目重視でも、それは⁉


山﨑 徹(やまさき・とおる)

はやま接骨院(高知県高岡郡)院長
・看護師
・柔道整復師
全日本オステオパシー協会(AJOA)京都支部長
シオカワスクールオブ・カイロプラクティック ガンステッド学部卒NAET公認施術者
 
看護師、柔整師の資格を有する傍ら、カイロプラクティックとの出会いからシオカワでガンステッドを学び、21世紀間際にスタートした科学新聞社主催の「増田ゼミ」 で増田裕氏(D.C.,D.A.C.N.B.)と出会ったことから、以後、氏の追っかけを自任し 神経学、NAETを学ぶ。現在は専らオステオパシーを学び実践しているが、これまでに 身につけた幅広い知識と独特の切り口でファンも多く、カイロ-ジャーナル紙から引き続き連載をお願いしている。

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