痛み学NOTE《第11回》
「痛み回路の二重システム」

カイロジャーナル68号 (2010.6.24発行)より

皮膚表面をピンで刺すなどの機械的刺激、皮膚に15℃<45℃が加わる冷熱刺激、あるいは刺激性化学物質、これらはいずれも組織を傷害する可能性がある。この物理化学的な侵害刺激が直接作用すると起こる表面痛は「速い痛み」と「遅い痛み」に分けられる。

速くて鋭い痛みは限局できる一次痛で、逆に遅くて鈍い痛みは局在がはっきりしない二次痛とされる。深部痛や内臓痛にはこうした区別はなく、うずく痛みである。機械刺激による深部痛の閾値は、骨膜で最も低く、骨格筋で最も高い。中でも、骨格筋の痛みは血行障害に持続収縮が重なると現れやすいとされている。

これまで鋭い痛みはAδ線維が、鈍い痛みはC線維が伝達するとされてきたが、近年の研究では受容器の違いが刺激の種類を分けて伝達するとみているようだ。神経線維よりも受容器に注目が集まっている。

ほとんどの場合は、高閾値機械受容器の興奮をAδ線維が、ポリモーダル受容器の興奮をC線維が伝達するというのだが、受容器についてはまだまだ研究の余地が残されている。特に「ポリモーダル受容器」は今後の徒手療法の表舞台にも登場してくるに違いないが、詳細は別項で紹介したい。

では、これらの受容器が受け取った侵害刺激はどのような伝達経路をたどって痛みとなるのだろうか。

運動神経系には基本的な系である「錐体外路系」と、高度の運動を可能にする「錐体路系」があるように、感覚神経系にも基本的な「毛帯外路系」と高度の識別感覚を伝える「毛帯路系」がある。この2種類の侵害刺激伝達回路は、識別感覚という知性に働きかける毛帯路系(新脊髄視床路)と、情動や自律反応系に働きかける毛帯外路系(旧脊髄視床路)ということになる。

そして、侵害刺激は視床より上位で侵害部位の痛みとして認知されるのであるが、痛み感覚はそれだけでは説明されないものがあるようだ。

 

1)毛帯路系(識別感覚伝達システム)

高閾値機械受容器を興奮させた侵害刺激は、一次痛として脊髄後角の第一層に入る。そこで新脊髄視床路の二次ニューロンを興奮させると、長い線維を介して脊髄の反対側に渡り、脊柱を脳に向かって毛帯路系を上行する。その大部分の線維は視床特殊核の腹側基底核に終わる。そこから大脳皮質に信号が送られるが、そのひとつの領域は大脳皮質の体性感覚野S1、S2に伝わる。ここでの侵害部位の位置確認は正確であることから、毛帯路系の伝達経路システムは知的な識別感覚を促す回路系であることがわかる。明らかな警告系の痛み回路である。

 

2)毛帯外路系(情動、自律反応伝達システム)

さて、ポリモーダル受容器の興奮をもたらした侵害刺激は、一次痛に約1秒以上遅れて、二次痛として後角の2層と3層に入る。それを受けて二次ニューロンが脊髄の反対側に渡り、毛帯外路系を上行して脳幹に入る。そこから視床にまで達する線維は僅かで、多くは中脳や脳幹網様体から多線維ニューロンが痛覚信号を中継して、視床の髄板内核、視床下部、大脳辺縁系に送っている。

動物実験では中脳より上部を除去しても、痛みを知覚する能力は破壊されないことが知られている。痛み刺激に反応して苦痛を表現するのである。このことは、下位脳が苦痛をもたらす痛みの認識に重要だとされる根拠になっている。

痛みは、体性感覚野で行う識別された本質的認知よりも、下位中枢における知覚認識が極めて重要な役割を果たしている。毛帯外路系という原始的な伝達系が「情動系」と「自律反応系」に痛み感覚を送っているのであるが、このことは下行性の「抑制系」を作動させるためにも重要である。

また、この系は痛みが身体の主要部分にあるということだけは分かるが、局在的な位置確認はほとんど出来ない。臨床の現場でも、慢性の痛みを訴える患者ほど広い範囲の部分を示すことを経験的に知っているが、それはこの毛帯外路系の伝達回路が多シナプス性で広範囲に接続しているからなのだろう。


守屋 徹(もりや とおる)

  • 山形県酒田市出身
  • 守屋カイロプラクティック・オフィス酒田 院長
  • 日本カイロプラクティック徒手医学会・理事(学会誌編集長)
  • 痛みの理学療法研究会・会員
  • 日本カイロプラクティック師協会(JSC)・会員
  • マニュアルメディスン研究会・会員
  • 脳医学BASE研究会・副会

    「カイロプラクティック動態学・上下巻」監訳(科学新聞社刊)、その他あり。

    「脳‐身体‐心」の治療室(守屋カイロプラクティック・オフィス) ブログ

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