痛み学NOTE《第13回》
「急性ストレス刺激には鎮痛作用もある」

カイロジャーナル68号 (2010.6.24発行)より

ストレスが痛みの誘因になることは周知のことであるが、逆もあり得る。例えば、損傷などによる痛みの強さは、その発生状況や心理的背景によっても異なるようだ。運動競技中でのアクシデントを見聞きするたびにそう思う。

競技中の不意の損傷で随分と痛そうにしていたかと思うと、間もなく何事もなかったかのように平然とプレイしていたりする。ところが翌日のニュースでは、実は骨折だった、と今度は痛々しい姿を写真つきで報道されることもある。

骨折でも競技ができたというのは、痛みの侵害信号が脳に届くのを遮断するか、あるいは鎮痛物質を放出する仕組みがあるからに違いない。つまり、急性に起こるストレス刺激は鎮痛作用として働くこともあるということだ。

そう言えば、戦時における前線で重傷を負った兵士の三割ほどは、痛みを訴えなかったという記録もある。また、救急病院に搬送された救急受傷者でも、痛みを訴えない救急患者が同程度ほどいるという報告もある。負傷には痛みがつきものだが、負傷と痛みの程度は一致しない。

ストレスには、「疼痛」と「鎮痛」という両極の感覚をもたらすということがあるというわけで、発生状況や心理的・身体的背景は痛みの程度をも左右するのだが、こうした仕組みの解明は1970年代に入ってから活発になったようである。

この痛み抑制系のメカニズムは、つまりは中枢神経系の作用であり、今のところ2種類のシステムによって抑制系が成り立っているとされている。

ひとつは、痛覚伝導路の中継核に痛覚抑制インパルスを飛ばしてシナプス伝達を抑制するシステムである。この伝達系にも「下行性」と「上行性」経路があり、更に脊髄内で作用する「髄節性」の系があることが分かっている。もうひとつは、モルヒネ様の鎮痛物質を放出して抑制するシステムである。


守屋 徹(もりや とおる)

  • 山形県酒田市出身
  • 守屋カイロプラクティック・オフィス酒田 院長
  • 日本カイロプラクティック徒手医学会・理事(学会誌編集長)
  • 痛みの理学療法研究会・会員
  • 日本カイロプラクティック師協会(JSC)・会員
  • マニュアルメディスン研究会・会員
  • 脳医学BASE研究会・副会

    「カイロプラクティック動態学・上下巻」監訳(科学新聞社刊)、その他あり。

    「脳‐身体‐心」の治療室(守屋カイロプラクティック・オフィス) ブログ

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