イネイト・インテリジェンスとは何か?」第32回
本論休題2-4
【理学療法士についての私見 2】
余談が長くなったが、PTがリラクゼーションやスポーツトレーナー、整体などに移行していくことは目に見えているというより、既にそういう方向に向かっているが、成功しているPTはそれほど多くない印象である。それも当然でPTの教育はあくまで医師の指示の下で働く医療従事者としてのものであって、医師の指示なしに自ら判断して施術することはカリキュラムにないであろう。既に病名のある患者のリハビリ計画を考えることと、全く新規に患者の全体を捉えて施術を考えることは同じではない。自分で判断するという辺りを甘く考えて開業するPTが、廃業していくのは当然と言える。
手技に貪欲なPTたちが、カイロプラクティック・アジャストメントの技術を習得していく可能性が非常に低いのは、アメリカのPTの協会の方針であろうと思われる。しかし、オステオパシーの手技はかなりパクられている。各学校で教科書としても使われている「系統別・治療手技の展開」を見れば明らかで、この本には筋膜リリース、筋膜マニピュレーション、マッスルエナジー・テクニック、頭蓋仙骨療法、ゼロバランス、体性感情リリースなどの手技がPTの技術として掲載されている。教科書で用いられているということは、学生たちはこれらの手技がPTのオリジナルだと勘違いしてしまうことになる。
学会で各手技に関して論文発表すれば、今まで科学的に証明されていないものを、PTが証明したということでPTのものとなる。これが学術界の常識であるので、学会を持たない、あるいは持っていても科学的な証明をしてこなかったオステオパシーやカイロプラクティックは、その手技を乗っ取られても文句が言えない。カイロプラクティックでは、Dr.キャリックのカイロプラクティック神経学(機能神経学)が最もパクられやすいのでは、と思っていたら、実際パクられている。
私の知っているある整形外科では、介護保険制度ができてすぐにデイケア=通所リハビリを始めた。同時にPTを常勤2名、非常勤を複数名雇用した。非常勤というのは、まあパートと言うかアルバイトである。そのアルバイトの40代くらいのPTがSOTを知っていた。要はスラストを行わない手技はなんでも取り入れていこうという表れである。しかしながら、当時常勤の女性のPTが患者にしていたのは、メンソレータム・クリームを塗って行うマッサージである。あるいは、木片を楔形に加工したものを使って関節を緩めるようなものであったりした。
そもそもPTは手技療法を持ってはいなかった。基本的には、固まった関節を動かしたり、萎縮した筋肉に力を入れさせたりする運動療法が主体で、その過程で筋肉をほぐす程度のマッサージをしていたわけであるが、開業医ではマッサージの方が主体となっていったわけである。一般に「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るために、個別の筋力トレーニングや関節可動域改善などの運動療法と称するものを行わせ、また電気刺激、マッサージ、温熱等の物理的手段を加えることをいう。
PT、OTによれば、診療の補助として医師の具体的な指示を受けての理学療法、並びに理学療法として行うマッサージを行うことができるため、PTの自己判断で理学療法やそれに必要なマッサージを行うわけではなく、患者の状態を評価して個別の運動療法や、それに付随するマッサージなどを行う計画を立てる形になる。それを医師がそのまま許可したり、一部を修正したりするわけであるが、「プロフェッショナル・フリーダム」などと称して基本的に丸投げである。
大体において開業医が理学療法に求めるものは、患者が早く良くなるような手技ではない。実際、交通事故の患者を2回くらいの施術でムチ打ちの問題を軽減させたところ、医師から文句を言われたことがある。2回程度で良くなったのでは、保険診療では金にならない。思うに、初期のムチ打ち症はカイロプラクティックで十分改善すると思われるが、保険診療というのは良くも悪くもならず、頻回に通院すると、なんとなく調子が良いと思える程度がベストなのである。事故の場合、3カ月程度でそこそこ改善するのが最も良い。長すぎると保険で切られるからである。
回数をこなしてもらわないと収入にならないのが整形外科の理学療法や物理療法であり、これは柔整師も同じことである。その意味では、保険会社が認めればカイロプラクティックを自賠責で行うことは可能である。協会団体がきちんと効果を示すことができれば1回1万円で月に4回程度の施術により、2カ月以内に改善させることができれば、保険会社は率先してカイロプラクティックの施術を受けさせるであろう。ただし、これでは患者に慰謝料はほとんど出ない。一般に慰謝料とは医者にかかった回数を元に計算される。毎日通えば、それだけ調子が悪いとみなされ慰謝料は増えることになる。
先に述べたように介護保険制度が開始された当初、デイケア=通所リハビリを始めた医師は多く、PTの需要は一気に増えた。それ以前に、病床を持つ大きな病院ではPTがすでに勤務しており、理学療法士法が公布された1965年(昭和40年)以前から病院で理学療法を行っていたのは、あマ指師などであり、これらの救済のために下記のような体裁を取ったと思われる。
PT、OT法の附則の受験資格の特例で下記のようなものがある。この法律の施行の際、現に病院、診療所のほか省令で定める施設において、医師の指示の下に、理学療法または作業療法を業として行っている者であって、次の各号に該当するに至った者は、昭和49年3月31日までは、第11条または第12条の規定にかかわらず、それぞれPT国家試験またはOT国家試験を受けることができる。
1 学校教育法第56条第1項の規定により、大学に入学することができる者または政令で定める者
2 厚生大臣が指定した講習会の課程を修了した者
3 病院、診療所、その他省令で定める施設において、医師の指示の下に、理学療法または作業療法を5年以上業として行った者
要するに、看護師や柔整師などでも上記を満たせば、運動療法機能訓練技能講習会を受けて理学療法を行うことができる。この時点でのPT不足を補うための一助でもあったが、言い換えれば、リハビリとは講習を受けてできる程度のものと行政が認識しているわけである。ただし、保険点数はPTが行うものより若干低い。まあ、新しい法律ができるときには、既得権者を優遇する特例があるのは言うまでもないが、新規に学校で単位をきちんと取った新卒者が、特例PT(元あマ指師など)を正規の教育を受けていないことから、下に見ることがあったりする。
しかし、現場でそれが間違いであることに、やがて気がつくことになる。リハビリに限らず患者を直接診る場合、教育よりも経験の方が優先する。なぜなら、現場では教科書に載っているような典型的な症例は少なく、なんらかの複合があったりして非典型的となり一筋縄ではいかない。まあ、カイロプラクティック業界でも、DCであることや国際基準の教育を受けたとかいうことがステータスになっていたりするが、技術が伴わなければ大した意味はないのと同じことである。
2025年現在、厚労省では勤務医・開業医に関して、勤務医を手厚くする方向にシフトしており、開業医は昔に比べれば金にならない。しかし、かつては違った。余談ではあるが、昭和40〜50年代頃は院内処方であったので、これが開業医の金の元になっていた。例えば、薬100錠を買うと同じ薬が1,000錠オマケに付いてくることもあり、定価1,000万円以上の医療機器が納入価は300万円だとかいう時代であった。その頃の医者の中には、車をもらっただの、別荘をもらっただのという話すらある。医薬品の臨床試験を行っている教授などは殿様のような扱いであった。
現在はMR(Medical Representatives、医薬情報担当者)という名称であるが、かつてプロパーと呼ばれた製薬会社の営業マンの医者に対する接待は物凄かった。夜は高級料亭や高級クラブに繰り出し、休日はゴルフ接待、医者が学会に行けば旅券やホテルの手配は当然で、発表でもしようものなら発表資料の準備からスライド作成(パワポなどないのでポジフィルム)までしなければならない。また医師のみならず、その家族のプライベートな世話もするわけで、早朝から深夜、休日返上という全くブラックな仕事であるが、製薬会社には金があった。まあ、太鼓持ち兼召使い(奴隷?)のようなものであり、プロパーとわかった途端に親に就職を反対されたり、縁談が破談になったりということもあったらしい。
そんな感じであるから医者からは侮蔑とまでは言わないが、プロパーから接待を受けていながら、営業成績のためならなんでもする連中というように考える医者が大半であったように思う。因みにプロパーとはProperではなく、プロパガンダの省略である。その後プロパーも大きく変化して、公益財団法人医薬情報担当者教育センターが1997年に設立され、MR認定試験が実施されるようになった。受験資格を得るには導入教育450時間以上が必要で、毎年40時間以上の継続教育を受け、5年ごとに認定の更新を受ける必要がある。現在MRは約55,000人程度いるが、薬剤師は1割強であり、ほとんど文系出身らしい。
かつて封建制度の頂点として医者が君臨した医療業界は、現在では徐々に様変わりしている。薬害エイズや様々な医療事故などの医療過誤の多発が国民の信頼を失墜させ、医療費抑制策による収益縮小で大小医療機関の経営は悪化した。かつての老人病院などでは老人患者が浮腫むほど点滴を打ちまくっていたが、保険点数のマイナス改定が行われた途端、点滴を打っている年寄りはいなくなった。つまり、打っても打たなくても良い点滴だったということである。要するに使う薬剤が大幅に減った。さらに海外巨大製薬メーカーたちとのグローバルな競争激化により、国内製薬業界は再編を余儀なくされた。
このような急激で甚大な医療業界の環境変化に伴い、MRのあり方も検討されて上記のような資格認定が行われるようになり、かつてはほとんどいなかった女性MRも増えてきた。因みに、現在製薬会社が新薬を開発発売するまでには、10〜20年の期間と500億円程度の費用が必要であり、新薬の候補化合物から新薬として承認され実際に発売される確率は1/12,324だと言われている。そのため製薬会社が新薬を売るのに必死になるのは当たり前と言え、開発されれば儲けは莫大となる。この1997年は、厚生省が37のモデル国立病院に対して医薬の完全分業(院外処方箋受取率70%以上)を指示した年で、これ以降、医薬分業が急速に進んだ。目先の利くプロパーは全国的に院内処方が少なくなり調剤薬局になることを見越して、担当地区の複数の医院の調剤薬局をグループ展開して儲けた者もいる。
次回は柔整師について私見を書いてみたい。
参考文献
- https://www.og-wellness.jp/contents/support/rewards/care-fee-criteria
- https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80038000
- https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000137
- https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/rehabilitation.html
- https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/0803/15/news005.html
木村 功(きむら・いさお)

・柔道整復師
・シオカワスクール オブ カイロプラクティック卒(6期生)
・一般社団法人 日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)で長年、理事、副会長兼事務局長を務める
・マニュアルメディスン研究会 会員
・カイロプラクティック制度化推進会議 理事
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