イネイト・インテリジェンスとは何か?」第29回
本論休題2−1
医療畑で35年以上勤務してきたが、その辺りからのよもやま話をしようかと思う。取り敢えず、我々に関連のある医療従事者、医業類似行為者等の現在の状況を見てみたいと思う。以下は、すべてネットでの情報であるので、間違いもあるかもしれない。
【学校】
理学療法士(PT)の養成校は、2024年現在で全国に279校あり、 4年制大学が121校、短大が8校、専門学校が145学校、専門職大学が5校の279校(募集停止校数は7校)で、総定員数は14,954人。国家試験(国試)出願者数は13,377人。PT養成校の充足率(定員に対する入学者の割合)は、一部の学校では110%を超える一方で、他の学校では85.7%程度の場合もある。
リハビリ系学科を持つ大学のうち約40%で何らかの問題点(例えば、教員の質)があり、文科省からは「教育内容の充実を通じた定員未充足の改善」が求められているようである。特に16校(全体の約5%に相当)では定員の半数以下(充足率38〜47%)しか入学者が集まらない深刻な状況であり、一部には定員超過の学校もあるが、大半は定員割れの拡大に苦慮しているのが現状らしい。
柔道整復(柔整)師の養成施設数は1998年時点で14校であったが、2015年に109校へ急増し、定員も1,050人から8,797人へ増加した。2022年時に廃校2校、募集停止校は4校である。2022年時点で、大学は13校、短期大学1校、専門学校89校、特別支援学校1校の104校であった。2025年の第 1 回学校関係者評価委員会(鍼灸学科)議事録によると、文科省が実施する学校基本調査のデータでは
・入学定員 2012年:7,197名 → 2022年:4,947名 10年間で2,250名減少。定員60 名の学校37.5 校分が消失した計算になる。
・入学者数 2012年:6,042名 → 2022年:3,761名 10年前の62%まで減少。定員に対する充足率は60%台。
あん摩マッサージ指圧(あマ指)、はり、きゅう(鍼灸)師の養成施設も1998年には14校だったが、2015年には鍼灸学校93校、定員 875人から5,665人へ増加した。2023年現在、大学である鍼灸師養成施設は12校存在する。うち、あマ指師養成施設があるものは国立筑波技術大学1校で、視覚障害が入学要件のため健常者は入学できない。
専修学校・各種学校のうち、高等学校卒業者程度を対象とする鍼灸師養成施設は84校。うち、あマ指師養成施設があるものは26校。中学校卒業者程度を対象とする鍼灸師養成施設およびあマ指師養成施設は、1校(5年制・障害者のみ)存在する。主に視覚障害者を対象とした特別支援学校では職業教育として鍼灸養成施設組み込まれており、鍼灸師養成施設は56校。あマ指師養成施設は58校(2校は、あマ指師養成施設のみ)。視覚障害者と複合しているのでややこしい。募集停止校はいくらかあるがはっきりしない。2025年の第1回学校関係者評価委員会(鍼灸学科)議事録によると、文科省が実施する学校基本調査のデータでは
・入学定員 2012年:6,330名 → 2022年:4,776名 10年間で1,554名減少。定員60名の学校25.9 校分が消失した計算になる。
・入学者数 2012年:4,302名 → 2022年:3,570名 10年前の83%まで減少。鍼灸の充足率は60%台。あマ指は100%であった。
経産省管轄のヘルスケア・サービスであるリラクゼーション業界と競合しやすい、あマ指師に関しては、厚労省は健常者向け養成学校の新設を制限した法律の規定に基づき、養成校新設を認めていない。これを違憲として裁判を起こされたが、2022年の最高裁判決で厚労省の主張が概ね認められ、健常者向けの養成施設の設置は認められなかった。しかし、視覚障害者の入学は減少傾向にあり、入学者を確保したい学校が健常者を入れたいのは自明であろう。
ところでそのヘルスケア・サービス関連であるが、下記のような資格(商法?)が見つけられた。日本インストラクター技術協会のHPでは、美容・健康・ボディケアの資格に、筋トレインストラクター資格・ゆがみ矯正インストラクター資格・むくみ改善インストラクター資格・つぼ押し士資格・ヨガインストラクターjp®資格・体幹コーディネーター®資格・リフレクソロジスト資格・安眠インストラクター資格・アロマオイル士®資格・ピラティスインストラクター資格・タイ古式整体士®資格・シェイプアップインストラクター資格・骨格診断士資格・ローフードソムリエ資格・歩き方インストラクター資格などがある。
https://www.jpinstructor.org/shikaku/
また、日本生活環境支援協会のHPには、つぼトレーナー資格・ダイエットアドバイザー資格・姿勢コーディネーター®資格・トレーニングサポーター資格・温活ヘルスマイスター資格・運動メンタル士資格・ポジティブメンタルトレーナー資格・ウォーキングアドバイザー資格などがある。
https://www.nihonsupport.org/biyoshikaku/
驚くことに、日本インストラクター技術協会のHPでは、つぼ押し士資格 > 指圧師になるには?必要な資格や仕事内容を解説というページがある。
https://www.jpinstructor.org/shikaku/biyo/tsubo/tsubo_column01/
【修業時間と学費】
以下、わかりにくいので時間数で表したが、現在は単位制になっているため、時間数はおおよそである。PTの養成課程の教育カリキュラムは、3,120時間以上(作業療法士は3,150時間以上)の講義・実習が必須と定められている。臨床実習は810時間以上。養成校の種類は、文科省管轄の4年制大学と3年制短期大学、厚労省管轄の3年制または4年制専門学校がある。大学では一般教養などを勉強する基礎科目と理学療法士になるための専門科目の両方を履修する。
大学を卒業すると「学士」、4年制専門学校を卒業すると「高度専門士」、3年制専門学校を卒業すると「専門士」という学位が取得でき、学士や高度専門士を取得すると大学院修士課程や博士課程に進むことができ、「修士」や「博士」の学位取得を目指すことができる。3年制は短期詰め込み型のカリキュラムになっており、勉強についていけない場合があり、4年制の方が楽だという指摘もある。つまり、3年制は国家試験に受かりにくい。授業料は、国公立大学で4年間約250万円、私立大学で4年間約550〜800万円程度、専門学校は、3年制で約350~500万円、4年制で約500~700万円程度である。
柔整師の養成学校における教育カリキュラムは、3年間で2,760時間以上の授業を履修する必要がある。臨床実習180時間。養成校の種類は、4年制大学、3年制専門学校があり、大学のカリキュラムには柔整の知識や技術以外に、語学や社会学などの一般教養が組み込まれている。こちらも大学を卒業すると「学士」となる。授業料は、3年制専門学校で400~500万円程度。大学では、4年間で600~700万円程度。
あはき師の養成課程のカリキュラムは、3年間で最低履修時間数:あマ指師2,385時間以上、鍼灸師2,655時間以上、あはき師2,835時間以上。臨床実習135時間。あマ指師の養成施設費用は、3年制専門学校で300〜550万円程度。鍼灸師養成施設は、3年制の専門学校の場合、約360~500万円程度(夜間部は安い)、4年制大学の場合は約600~800万円程度。多くは3年制の専門学校で、一部は短期大学・4年制大学があるのは柔整師と同様である。専門学校と大学の多くは、視力に関する規制はなく、晴眼者でも入学が可能である。
大学の体育学部やスポーツ科学部または専門学校を卒業し、スポーツトレーナーになる場合に日本やアメリカの各協会の公認資格をとる場合にキャリアアップのため、柔整師やPTの資格を取得する者もいるようである。また、逆に柔整師やPT、あはき師免許を持っている者が各協会のトレーナー認定を受ける場合もある。あはき、柔整の資格が取れる大学には、スポーツトレーナー学科等を併設している場合もある。
カイロプラクティックの場合、世界基準教育とはWHOが推奨する4200時間以上の大学教育(4年制)を修了することを指す。国内にも、かつて世界基準教育を行う民間学校があり、授業料は4年間で800万円程度であったが、今は閉校している。その東京カレッジ オブ カイロプラクティック(TCC)のカリキュラムでは、臨床実習1004時間、カイロプラクティック学1480時間、基礎医学・臨床科学1817時間、計4301時間となっている。
【収入】
額面30万円の手取り額は約24万円、額面40万円の手取り額は約31万円となる。所得税や住民税、社会保険料などが差し引かれたものが、手取り額である。所得税・住民税・社会保険料などはだいたい額面の2割程度であるので、額面に0.8をかける大体の手取り額が出る。当然ながら、新卒は収入が少なく、年数が上がれば上昇する。
「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、理学療法士の平均年収は約432万円。内訳は月収30.09万円(手取24万円)・ボーナス71.44万円(手取57万円)。全産業の平均が年収506.94万円、内訳は月収34.67万円・ボーナス90.9万円であり、若干低い。同統計調査によると、理学療法士も15年以上で年収501.49万円、内訳は月収33.85万円(手取27万円)・ボーナス95.29万円(手取76万円)となっており、まだ全産業の平均に届かない。
PTの就職先は、上記のような年収の医療施設・介護施設の他に、障害児童施設や教育・研究施設、企業内の健康管理、フィットネスなどのスポーツ施設、個人開業などがある。都市部の急性期病院や高給与が期待できる大手施設には応募が集中し、地方病院や介護領域では採用難が続くという事態もある。供給過剰で飽和しかかっているように見えつつも、現場では未だに慢性的な人材不足になるのは、収入が低いからに他ならない。
柔道整復師の年収は、接骨院に勤務する場合、年収350~500万円(600万円という数字もあるが、雇われ院長で歩合制かもしれない)。内訳は月収約30万円(手取24万円)・ボーナス約65万円(手取52万円)程度(600万円の場合、月収約35万円(手取27万円)・ボーナス約90万円(手取64万円)程度)。トレーナーや病医院、介護施設、養成学校に勤務する場合は、また別のようであり、施設状態によっては若干アップしている可能性もあるが、独立開業して成功した場合には及ばない。ただ、開業は年々難しくなる傾向にあり、最低でも1000万円程度の資金が必要である。
2019年度の学生の就職動向は、柔整師業界へ3割、関連医療業界、介護福祉業界へ3割、全く医療と関係のない職種に3割、公務員1割という割合である。一般的な柔整師の就職先は接骨院、他にリハビリ施設・介護施設・訪問介護、病医院の整形外科、プロスポーツチームのトレーナー、スポーツ・フィットネスジム、リラクゼーションサロン・エステサロン、企業の福利厚生として従業員にサービス提供、柔道整復師養成学校教員、独立開業などがある。
年収は、あマ指師300~450万円、鍼灸師は鍼灸院に勤務する場合350~450万円が相場で、柔整師に比べると就職した場合、賃金は若干低めの傾向にあるが、歩合制のことも多い。全日本鍼灸学会雑誌に掲載された調査報告によると、鍼灸師の年収の中央値は324万円であり、期間工合同会社が調査した日本の年収の中央値320万円とほぼ同じ。しかし、鍼灸師資格だけ保有している場合、年収の中央値は260万円となっており、柔整師やあマ指師など、複数資格を有している方が年収は高い傾向にある。
ちなみにヘルスケア・サービスのリラクゼーションにおける揉みほぐしなどは、医行為または医業類似行為あるいは風俗営業ではないということが大前提とされており、日本リラクゼーション業協会によるリラクゼーションの定義によれば、「リラクゼーション」とは、手技・空間演出・コミュニケーションを用いて、心身の緊張を弛緩させることで、ストレスを解消し、心と身体を心地よい状態にすることを目的とする行為とされているが、結局やっている人間に宣言に基づいているように思われる。リラクゼーション・セラピストの平均年収は、300万円台後半から400万円台前半程度で、安いところでは180万円台もあり、歩合制もある。また、個人で独立開業して年収1000万円以上のものもいる。
木村 功(きむら・いさお)

・柔道整復師
・シオカワスクール オブ カイロプラクティック卒(6期生)
・一般社団法人 日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)で長年、理事、副会長兼事務局長を務める
・マニュアルメディスン研究会 会員
・カイロプラクティック制度化推進会議 理事
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