治療院成功への道 第5回
「日頃の癖を見直して触診力を磨く」
ある日の某懇親会での会話で、目の前に座っていた他業種の経営者の方が、私のコップを持つ手を指差して「そんな大事そうにコップを持って…誰も作尾さんのビールを盗らへんって」と笑いながら話しかけてきました。「えっ、一体どういうこと?」と尋ねると、「コップを包み込むようにメッチャ大事そうに持ってはるやん」。そのひと言を聞いたとき、なんとも嬉しくなり、思わず顔がほころんでしまいました。
今回は自分が思う「触診」について書かせていただきました。ぜひ、最後まで読んでみてください。
モーション・パルペーション研究会(MPSG)講師の手に憧れて
15年ほど前のことだったと思いますが…正確にはもっと前だったかもしれません。初めてMPSGの勉強会に参加したとき、中川貴雄先生がその場で受講生の腰痛を改善させるのを見て、度肝を抜かれました。同時に、柔道整復師の資格を取ったばかりの私にとって、中川先生の繊細かつ的確な検査、治療は、神がかりとさえ見えました。あの日からずっと中川先生のようになりたくて、勉強や練習を続けています。
MPSGで学び始め2年ほど経ったある日、勉強会後の懇親会で運良く講師の一人、佐藤憲三先生と話をする機会を得ました。当時の私はMPSGで学び始めたばかりで、「どうすれば触診が上手くなるのか?」、「中川先生のようになるには?」、自分が佐藤先生の立場だったら嫌だろうな…と思うくらい、根掘り葉掘り聞きまくった結果、触診が上手くなる方法を教えていただけたのです。
佐藤先生は「僕は中川先生のコップや湯呑みの持ち方を真似しています」と教えてくれました。もっと具体的に質問すると、「中川先生は指先を使わずに、手のひらや指の腹で持っています」、「必ず下からすくうように持っています」とのことでした。佐藤先生、当時は本当にしつこく質問をして申し訳ありませんでした。
この話を聞いたときから、ペットボトルやコップを持つときに手のひらや指の腹を使って持つ、下からすくい上げるように持つ、さらに指先に力を入れずに持つことを意識するようにしました。とても簡単なことのようですが、日常生活で意識をしていないときは、物を持つときに指先に力を入れていることに気がつきました。
そんな習慣を取り入れて1年が経った頃、日々の臨床で患者さんも自然と力を抜いてこちらに体を委ねてくれるようになり、触診や検査の精度も上がってきたのです。こうなると、なんだか治療が楽しくなってきて、患者さんの症状と関連する筋肉や皮膚、関節の硬さを探り当てることに毎日没頭しました。
臨床でわからなかったことは、毎月のMPSGの勉強会で講師にフィードバックをもらい答え合わせができました。さらに中川先生やMPSG講師の姿勢、なにげない動作を真似することでモーション・パルペーションの精度が上がり、日々の臨床で患者さんの不調も解消できるようになってきたのです。
触れ方一つで変わる検査の結果
日常生活の中で、佐藤先生から教わった触診の上達方法を継続した結果、一番役に立ったことは、
といった検査や触診が、より細かくできるようになったことでした。
検査や触診の際に患者さんの手足を指先で強く握ると、患者さんは緊張して硬くなり可動域や可動性が悪くなる傾向があり、反対に手足を指先で握らずに指腹や手のひらで包み込むようにすると、明らかに可動域や可動性が良い方に変化しました。検査や触診を乱暴にすると、「患者さんに過剰な刺激を与えることになっているのでは?」、「手足を握り込むような操作は、侵害刺激として入力が入っているのだろうか?」と考えています。この辺りはまだまだ勉強をする必要がありそうです。
学会、本から得た触診のヒント
宝塚医療大学で開催された第20回徒手療法学会で、永瀬佳孝教授の講演を聴くことができました。その講演でとても印象に残っていることは、手の受容器は指腹や母指球、小指球に密集しているということでした。触診において、指腹や手のひらを使うことの重要性を改めて認識できたことです。
また「触れることの科学 -なぜ感じるのか どう感じるのか-」(デイヴィッド・J・リンデン著)にも触診を磨くためのヒントがたくさん書かれていました。皮下の浅い層にある受容器、メルケル盤やマイスナー小体の機能や特性について。さらに皮下深層の受容器であるパチニ小体やルフィニ終末の機能や特性を考えれば、日常生活でものを持つ、あるいは触れるときに、手にしたものの素材や質感、温度、重さ、形といった様々な感覚に意識を向けることによって、触診の練習ができると思っています。日常生活でものを持つ、何かに触れるときに少し意識するだけで、触診が上達できる可能性があります。
これからも触診の勉強を継続していきたいと思います。
作尾 大介(さくお だいすけ)
・治療院成功塾 主宰
・柔道整復師
・(一社)微弱電流療法研究会 代表理事
空手の指導者をしていたときに、ケガで修業を断念する道場生たちを目の当たりにし、治療家の道を志す。整骨院での下積みと勉強の日々が続く中でも稽古は欠かさず、大会で優勝を飾る。選手引退後、2013年に外傷以外保険診療を一切使わない整骨院を開業するも、施術単価が安い同業者が立ち並ぶ中、自費診療は受け入れられない状況が続き、もう廃業かと追い詰められたときに、もっと経営の勉強をしなければと寝る間を惜しんで経営の勉強に取り組む。その後、業績は V 字回復を果たす。
全く経営理念の違う古株の治療家から嫌がらせを受けたこともあったが、「保険診療に頼らない院の経営方法を教えてほしい」という同業者からの声を受け、自費診療での安定した院の経営方法を教える塾を主宰。2020年、新型コロナウイルス感染拡大によって廃業する院も出る中、塾生たちは全員売り上げを伸ばし、中には緊急事態宣言中に開業し、月100万円を超える収益を叩き出した人もいた。
現在も、自費診療で質の高い経営を継続させる方法を伝える傍ら、MPSGに所属しカイロプラクティックの勉強に励んでいる。
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