代替療法の世界 第39回
「紙一重-辻本善光氏の愛媛勉強会より-」

鬼才の作品は語る

 ホラーとギャグは紙一重である。楳図かずお氏の作品がまさしくそれだ。ギャグ漫画は、まことちゃん。ホラー漫画は多数。特に神の左手悪魔の右手での「エピソード4 黒い絵本」は秀逸で、学生時代は連載を恐々読んでいた。作家の岩井志麻子が、ホラーの定義を何かの雑誌に書いていた。それによれば、「あるものがない状況」「ないものがある状況」この2つのどちらかの要素があれば、ホラーになるそうだ。例えば、猫を3匹飼っていたのに、ある日突然1匹いなくなる。家族に聞いても、最初から2匹だったよ、と言われる。これが減るパターンのホラーである。当事者は知っているのだが、周りは知らないという状況がホラーを形成するのである。
 

笑いの中にあるものは?

 徒手療法においてホラーはあるのか? ホラーはないがギャグはある。令和4年度の愛媛勉強会のテーマは「触診」であった。受講生は互いに棘突起を数えるという練習をする。ひたすら棘突起を数えて棘突起間に印をつけていく。一見簡単なようだが、やってみると難しい。特に体位を変えると難易度は増す。ある受講生が触診して「あれ? 2個増えた」「もう1回、今度は1個減った」という風に言う。笑ってはいけないのだが、辻本氏が「脊柱は増えもしませんし、減りもしません」という突っ込みを入れると、ついつい笑ってしまう。
 

ホントに笑えるのか?

 確かに脊柱の数は増えもしないし、減りもしない。もし受講生のみんなが最初から22個でしたよとか。最初から25個でしたよ。とか言うと一番恐怖を感じるのは辻本氏であり、笑いではなくホラーになる。ここにギャグとホラーは紙一重という理由がある。桂枝雀も笑いは緊張と緩和が生むと言っていた。静寂な中で真剣に脊柱を数えていて「1個足らん・・・」とつぶやけば、その緩急で笑いが起こる。みんなの脊柱に対する共通認識が増えも減りもしないということが、わかっているから笑える話になる。

 「数が合わない」これは数えるときに何かの間違いがある、ということである。となると間違いの要素は?となる。棘突起間がある部分では長かったり、短かったりすることで誤差を生じるのだろう。奇形の問題もあるだろうし、被験者の検査時の姿勢によって、棘突起間の長さは容易に変化する。模型ではない生きた人間ならではの変化である。
 

基本を大切に

 地味な練習だが効果は高い。触診はそこにあるものを正しく触るだけである。術者の思い込みを修正してくれるチューニングのようなものだ。普段の臨床では、ここまで厳密な触診をしなくても治療はできるだろう。だが比較対照しなければ、どの部位がどういう方向にフィクセーションを起こしているのかが判別できないのも事実である。先入観を捨て、真っさらの状態で触れることにより得るものは大きい。前提として脊柱は24個なのだが、中には先天的に個数が多い方や、少ない方もいるかもしれない。ほとんどの方は24個なのだが、例外もあるのだ。こうして考えると先の受講生の「増えた、減った」という発言も笑えなくなってくる。
 

紙一重の本質とは

 読みと思い込みは似て非なるものである。経験を積んでいくと、ある程度の読みができるようになる。と同時に、思い込みという罠に陥ることもある。それこそ思い込みという過信は失敗につながる。治療家にとって失敗とは、症状の改善ができないということだ。患者のニーズに答えられないとも言い換えることができる。ある程度の結果を出さなければ、自然と患者は来なくなり、経営も行き詰る。今まで代替療法家は結果を出すことで存続してきた。辻本氏が実践教育するスーパーベーシックが思い込みを排除し、より良い「読み」を可能にするだろう。治療には常に読みと思い込みが混在する。上手い治療をしたければ紙一重の違いを理解しないといけないだろう。
 


山﨑 徹(やまさき・とおる)

はやま接骨院(高知県高岡郡)院長
・看護師
・柔道整復師
全日本オステオパシー協会(AJOA)京都支部長
シオカワスクールオブ・カイロプラクティック ガンステッド学部卒NAET公認施術者
 
看護師、柔整師の資格を有する傍ら、カイロプラクティックとの出会いからシオカワでガンステッドを学び、21世紀間際にスタートした科学新聞社主催の「増田ゼミ」 で増田裕氏(D.C.,D.A.C.N.B.)と出会ったことから、以後、氏の追っかけを自任し 神経学、NAETを学ぶ。現在は専らオステオパシーを学び実践しているが、これまでに 身につけた幅広い知識と独特の切り口でファンも多く、カイロ-ジャーナル紙から引き続き連載をお願いしている。

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