代替療法の世界 第37回
「平家物語と徒手療法」

 風の便りで東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(TCC)が閉校したと聞いた。良くも悪しくも日本のカイロプラクティック業界に影響を与えてきた学校が、その役目を一旦休むということである。ならば、ということで「閉校までに至る、社会状況などの大きな流れの総括」を書いておくべきだという、筆者の勝手な個人的思いである。しばしお付き合い願いたい。
 

流行りすたりは世の常

 「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」。平家物語の一節である。歴史は繰り返すというが、これほど端的に流行りすたりを、それも的確に表した表現はない。プロ野球球団の身売りが盛者必衰のいい例だ。古くは映画会社が所有し、鉄道会社、大手量販店、IT産業という風に、その時々の最も隆盛を誇るところが所有するのである。

 経営はどんな商売でも大変だ。特に少子高齢化の今、学校経営はホントに大変だと思う。筆者も全日本オステオパシー協会が運営していたオステオパシー学校に関わっていたので、経営の厳しさもよくわかる。身売りできれば経営陣が変わるだけで、実害は最小限に食い止められる。身売りもできなければ解散するしかない。そうなると何も残らない。余波は大きい。割を食うのは学生と相場が決まっている。
 

奇策、外国の日本校

 カイロプラクティックの学校をつくるのは大変なことだ。目先の利いた学校関係者は外国の学校を持ってきて、日本校として開校した。外国大学の日本校とは聞きなれないかもしれないが、文字通りに外国の学校が日本にあるというものである。2022年現在、文科省が認める学校は、テンプル大学をはじめとする米国大学が3校、中国の大学が4校、ロシアが1校である。

 当然これらの学校は本国が学位を担保する。日本にいながら外国の学校で学べるのだ。留学であれば外国に行かなければならないが、外国大学に国内留学するということになる。こうした方法により、カイロプラクティックの大学が日本で豪ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)の日本校として開校された。

 しかしRMITが手を引いてTCCという各種学校になった。というのもRMITの傘下にあれば豪州が学士号を保証する。だから、その庇護下を離れれば、日本にある学校なので日本の管理下に置かれる。文科省が認可していない以上、TCCはDC学位だ、となんだかんだ正当性を主張しても、その学位を担保する国はないのである。

 学位とは学位授与機構もしくは大学が出すものであり、その大学が国に認可されているかが重要になる。認可されていないということは、一条校ではないから日本からは大学として認められないのだ。アクレディテーションを取っているとか、いろいろなことを言っても2年間のカイロプラクティックの学校と何ら変わりはない。もちろん教育時間の違いはあるが、文科省、日本政府はそういう認識なのである。
 

説明責任は果たしたのか?

 TCCは事前に学生に対してこうした状況を説明したのであろうか。学位は私個人が出せるものではない。これでは学位商法と何ら変わりないのではないか。知らないで入学した生徒は気の毒としか言いようがない。また各種学校においても原則は土地、建物は学校の自己所有物件でないと、各種学校としても認められない。自己所有物件でないならば各種学校どころか無認可校になる。

 無認可校であれば、当然学校の称号は使えないから私塾という扱いになる。学校を運営している関係者は知っていると思うが、自己所有物件でない限り、学校という名称を付けてはいけないというルールがある。まぁー細かい学位の話はともかく、私塾扱いであろうとなかろうと需要があれば学校は存続する。

 ともあれTCCの経営陣も努力したのだろうが、生徒数の減少により2022年10月に閉校になった。これにより正規のカイロプラクティックを学ぶには留学するしかなくなった。現在、日本でカイロプラクティックが学べる学校は日本カイロプラクティックドクター専門学院(JCDC)、ユニバーサル・カイロプラクティック・カレッジ(UCC)、全国療術師協会(全療協)の研修所など数えるほどとなってしまった。
 

目的を見失った末路

 日本カイロプラクターズ協会(JAC)の当初の理念は「ちゃんとしたカイロプラクターを育てる」であった。上手くいっていた時期は、JAC以外はカイロプラクターにあらず、という雰囲気であり、その証拠にJAC以外のカイロプラクターにはセミナーの受講制限をした。フットレベラー社に横やりを入れマーク・シュレットDCの来日を阻止した。助っ人に岡井健DCが来てくれたが、JACはご丁寧に岡井氏にペナルティを与えた。JACの言い分もあろうが、ここまでするのは端から見たら嫌がらせでしかない。

 一方、嫌がらせをするだけではなく、JACはカイロプラクティック標準化コース(CSC)プログラムを提供し、既存のカイロプラクターたちの底上げを行った。そのCSCプログラムも、安全教育プログラムとなり、現在は臨床カイロプラクティックプログラムとなっている。これは通常料金99万円で、期間は1年9ヶ月である。終了すると認定試験を受ける権利が与えられ、合格するとJACに正規カイロプラクターとして入会できるというものだ。

 救済措置としては悪くない。しかしながら募集要項に「過去に、カイロプラクティックもしくは療術の教育を履修し、かつ1年以上のカイロプラクティック業務に係る臨床経験を有する者」とある。となれば現存するJCDCかUCCに入学する、もしくは全療協の研修などしか方法がないのである。これらの養成機関が教育期間を短縮、もしくはそれを検討していると聞く。だが正規カイロプラクターに国内でなろうとするならば、この方法だけである。TCCがなくなった今、臨床カイロプラクティックプログラムを通じて正規カイロプラクターを養成するために、認めていなかった各種学校としてのカイロプラクティック養成校に頼らざるを得ない状況。矛盾ここに極まれり。JACにとったら皮肉としか言いようがない。

 またカイロプラクティック世界大会を2027年に行うように誘致しているそうだが、正規の学校は潰れてしまった。その他のカイロプラクティック養成施設はJCDC、UCC、全療協などだけ。学校数の減少もさることながら、さらなる修業年限の短縮を行わざるを得ない状況である。日本の現状をどうやって説明するのか。正規のカイロプラクター養成校がない国で世界大会を行う目的はなんぞや?となる。このままでは世界中からやって来るカイロプラクターたちに笑われること必至である。
 

おごれるものは滅びるのみ

 平清盛の義弟である平時忠が「平家にあらずんば人にあらず」と言った。ずいぶんな物言いだが、源氏を発奮させるには十分だった。結果、平氏一門は安徳天皇の入水をもって栄華も露と消えた。この状況カイロプラクティックの現状とよく似ている。「おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ」。先の盛者必衰の理をあらわすに続く文言である。いかなる隆盛を誇っても長続きはしない、塵の様に風で吹き飛ぶということだ。

 1998年の柔整校新設による影響で、カイロプラクティック学校への入学希望者の減少を招いた。RMITの設立は1995年なので、まさか柔整校が乱立するとは思わなかっただろう。関西の国際カイロの教員だった辻本氏によれば、「柔道整復師などの資格が取れる学校へ行く」「資格が取れないカイロプラクティックの学校へ行く」という選択肢だと後者を選ぶ人はいないそうである。

 資格を取ったとて臨床には全く役に立たないことは多くの治療家が共感するだろう。しかしながら、学費を出すスポンサーである親、これから学ぼうとする者、彼らは業界を知らないが故に選択は「資格が取れる方」を選んでしまうのである。治す技術を売りにしていた実学重視のカイロプラクティックは自然淘汰されたようだ。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。そして聖人は経験から悟るという。関係者は学校を潰した経験、カイロプラクティックを衰退させた経験で悟れたか?
 


山﨑 徹(やまさき・とおる)

はやま接骨院(高知県高岡郡)院長
・看護師
・柔道整復師
全日本オステオパシー協会(AJOA)京都支部長
シオカワスクールオブ・カイロプラクティック ガンステッド学部卒NAET公認施術者
 
看護師、柔整師の資格を有する傍ら、カイロプラクティックとの出会いからシオカワでガンステッドを学び、21世紀間際にスタートした科学新聞社主催の「増田ゼミ」 で増田裕氏(D.C.,D.A.C.N.B.)と出会ったことから、以後、氏の追っかけを自任し 神経学、NAETを学ぶ。現在は専らオステオパシーを学び実践しているが、これまでに 身につけた幅広い知識と独特の切り口でファンも多く、カイロ-ジャーナル紙から引き続き連載をお願いしている。

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