徒手療法の世界に身を置いて 第16回
視診 その2
百聞は一見に如かずと言いますが、目に見えるものすべてが真実だとは限りません。
指標や基準をどこに置くのか?
姿勢をチェックするときなど一般的には、姿勢分析器や鉛直線(垂線)を利用する先生もおられると思います。こういったツールがあると、垂直線に対して右肩が前とか、骨盤が左に動いているなど比較的評価がしやすくなります。例えば体が左回旋している場合、右肩が前なのか左肩が後ろなのかどちらも左回旋という姿勢を取ります。
同様に体が右に倒れている場合でも、骨盤が左に寄っているのか、体が右側屈しているのか指標があいまいになると評価も変わってきます。人間の体には目線や頭部の位置を水平に保つための反射が存在します。そのため、基準になる接地面に対してそれより頭方がどう変化しているのかを考えていくと、間違いが少なくなります。
立位では足部、坐位では坐骨結節がこれにあたるので、ここを指標や基準にして考える方が良いでしょう。
上がっているの?下がっているの?どっち!
後ろから姿勢をチェックした場合、高さに違いがあることがあります。「骨盤が左下がりで、肩が右肩下がりです」など臨床で相談を受けたことがありましたが、下がっている方があたかも悪い側のように言われますが本当にそうでしょうか?
左肩が上がっている可能性は? 地球には重力が存在し、絶えず上から下に力がかかった状態で生活しますが、これだけで下がっている側が悪いという評価を下すのは少し短絡的ではないでしょうか? これでいくと筋の過剰収縮という考え方が臨床では成り立たなくなります。
右肩が下がって見える場合、右僧帽筋の伸張/筋力低下、右広背筋の短縮、左僧帽筋の短縮、左広背筋の伸張/筋力低下と筋肉の状態だけでも少なくとも4つのパターンが考えられます。また下肢長を見た場合、短い側が患側のような所見を取る場合もあるでしょう。短い側が本当に悪いの?
ヒトは見たいものや欲しいものを探す
気になるものがあるとき、人は無意識のうちにそれを探しています。例えば自分が乗っている車や、欲しい車があるときに街中でよく走っているように見えるのと同じです。それは施術者にとって都合の良いものでしかありません。評価とは得られた所見から患者さんの状態を考察することです。施術者にとって都合の良い所見ばかり集めても、患者さんの問題点に行きつくには時間がかかるでしょう。
見ればはっきりとわかりますが、それが正解なのかは確認しないとわからないのです。
辻本 善光(つじもと・よしみつ)
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。
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