徒手療法の世界に身を置いて
第32回 「施術のための2つの検査」

 徒手療法家が施術を行う前に、必ずしなければならない2つの検査。1つ目は患者さんの状態を把握するための理学検査。2つ目は自分たちの施術が適応なら、施術部位を決めるための検査。この検査は、どのようなテクニックを用いるかで検査内容が変わってきます。
 

アジャストメント教えてください

 今も昔もよく言われます。どの部位が悪いかわかっていても、上手く施術できません。徒手療法家としては歯がゆいですよね。ですが「どの部位が悪いかって、どのように決めましたか?」。「背骨の歪みをみて、モーション・パルペーション(MP)で問題が出ました」。
 基本的に、MPは可動域検査の1つであって、分節可動域検査と言ってもよいものです。MPでわかるのは動きの質、動きの悪い方向、どのくらい動かないのかだけで、それ以上でもそれ以下でもありません。
 

動きが悪い=施術の対象ではない

 過去の勉強会でも、またこのコラムでも書かせていただきましたが、動きが悪いからといって、施術の対象になるかといったら、そうでもありません。特に左右を比べて動く、動かないだけでは間違いの元になります。右が正常に動き左が動かないなら、それでも施術はできます。しかし、右が可動性亢進を起こしていたら、左は正常の可能性もあるのです。また、左が正常で右が変性を起こしていたり、関節が癒合していたりしたら、もちろん動きません。熟練した徒手療法家であればMPだけでわかるでしょう。それは、その硬さや動きの質がそれぞれ違って、それを感じ取ることができるからです。
 

「これやったら良くなるよ」の裏側

 施術のアドバイスを求められたら必ず、その先生から「問診」します。患者さんの状態、施術の経過、施術の内容と患者さんの反応。そして理学検査の内容。これらを聴いたうえでアドバイスさせていただくと、かなり良い結果が出ます。
 もちろん施術するのはその先生ですから、アドバイスをもらったからといって、急激に施術技術が向上したわけではありません。変わったのは、検査所見の取り方と「硬いところを施術する」ということから、「患者さんの悪いところをみる」ということに目を向けてもらうことができたからです。これは1つ目の理学検査の所見を参考にしただけなのですが。
 

間違った所見からは間違った結果しか出てこない

 正しい検査所見であれば、それがどんな施術技術であっても、ある程度は良い方向の結果が出ると思います。施術技術のスキルがそれなりであれば、それなりの結果が出て、まずは改善方向に向かいます。しかし、間違えた検査所見からは良い方向の結果は出てきません。例えどんなに良い施術技術であってもです。
 もし、いま悩んでいる患者さんをみているのであれば、見直すべきは施術技術の種類やスキルではなく、カルテに記載された検査内容の再考ではないでしょうか? そして、施術技術を行うための検査だけではなく、患者さんの状態を把握するための理学検査に目を向けてみてはいかがでしょうか?


辻本 善光(つじもと・よしみつ)

現在、辻本カイロプラクティックオフィス(和歌山市)で開業。
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。

 


関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。