徒手療法の世界に身を置いて 第44回
「どこでコンタクトするのかよりも、どこにコンタクトするのか」
先日、今年の愛媛勉強会が終了しました。今回は股関節がテーマとなっていましたが、年内最後ということもあってか、受講者からたくさんの質問をいただきました。
股関節伸展制限
あまたあるテクニック教本の中で、股関節の伸展制限の施術が紹介されていますが、大腿骨後面にコンタクトするとか、大転子後方にコンタクトするなど様々です。ある先生から、股関節伸展制限のための手技についての質問がありました。「大転子後方にコンタクトすると、股関節伸展より内旋するんじゃないかと思うのですが…」、もっともな質問です。年齢を重ねるにつれ、骨盤後傾を伴う股関節の屈曲変位/伸展制限には、股関節外旋を伴うことが多くなります。だからと言って、施術家が伸展制限を改善させたいのに、内旋方向への施術では、効果が変わってきて当然でしょう。では、股関節伸展制限を改善させるのに、大転子後方へのコンタクトでは間違いなのかと言われれば、決して間違いではありません。
関節操作のためには運動力学を考える
施術のために外力を使うのであれば、その関節に関する解剖学知識はもちろん、自ずと運動学や物理学といった知識も必要になります。股関節伸展とは大腿骨の前方軸回旋であり、その運動軸は大腿骨頚部長軸になります。このことからすると、大転子後方のコンタクトというのは正解ということになるのですが、問題は大転子後方のどこかということになります。股関節の形状と運動を考えれば、股関節を前方回旋させるためには、運動軸よりも頭方にコンタクトしていなければ、股関節は前方回旋できません。軸上のコンタクトであれば伸展は起こらないし、軸よりも足方になれば屈曲運動が誘発され、伸展のための操作は力任せなものとなり、全く施術効果が出ないということになります。
改善させるために必要なことを考える
大切なことは、何をすれば改善するかではなく、どうすれば改善するのか、を考えることです。これらのヒントは決して書籍やDVDでは書かれていません。書籍やDVDを読んだり観たりするだけでなく、それを考えなければ決して「使える技術」にはならないのです。何のためにその技術を使うのか、その技術を行うために何が必要なのか、その技術を使えるようにするにはどうすればいいのか、その技術を行えば患者さんの何が変わるのか、できる限り具体的なイメージが必要になります。その上に技術の向上がありますし、その技術をマスターするための反復練習が必要になります。
今一度、自身の施術技術を見直してみてはいかがでしょうか?
辻本 善光(つじもと・よしみつ)
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。
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