徒手療法の世界に身を置いて
第31回 「レジェンド二人の共通点」

 カイロプラクティック界でレジェンドと言われる先生方が何人かいらっしゃいますが、その中でも対照的なお二人と言えば、大阪の中川貴雄先生と東京の塩川満章先生ということになるかと思います。

 ご縁があって3月に中川先生、4月に塩川先生を講師にお招きし、セミナーを開催させていただきました。タイミングよく時間を空けずにお二人のお話をお聞きすることができたことは非常に貴重な体験でした。

 業界ではミキサー派とか、ストレート派とか分けることが多いようですが、そんなことを超越しているお二人の講義は、受講者を異次元の世界に招き入れているような夢心地の時間でした。
 

好きこそ、ものの上手なれ

 何よりもお二人とも「施術が好き」ということだと思いました。本当に施術が好き、カイロプラクティックが好きということが、セミナーの随所でうかがうことができました。お二人とも臨床経験は50年を超え、今なお現場でご活躍されています。一つのことを50年以上も続けられるということは、並大抵のことではありません。好きでなければ、とても続けることはできない年月だと思います。

業界への入り口

 中川先生は治療家の家庭に生まれた三代目で、若き日にはオステオパシーの古賀先生に師事していたことは有名な話です。一方、塩川先生もお兄さんが整形外科医で、そのお兄さんの勧めでカイロプラクティックを知ったということです。身近に治療家がいたことが、カイロプラクティックを目指すきっかけになったようです。

施術に見る共通点

 マイクロ牽引/モビリゼーションの中川先生。アジャストメントの塩川先生。アプローチには違いがありますが、目的は変わりません。それはイネイト・インテリジェンスの存在だと思います。2月に、科学新聞社のSCIエッセンシャル講座に中川先生が登場された際、先生から「イネイト・インテリジェンス」という言葉が飛び出しました。そのとき、参加者は皆ビックリされたんじゃないかと思います。少なくとも私は、「今、先生イネイトって言った? 言ったよね! 塩川先生じゃないよね?」と驚きを隠せませんでした。

患者さんを治したければ、考えること

 「患者さんから症状を聴いたあと、その症状が交感神経なのか、副交感神経なのかを考えること。その上で交感神経ならば、どの部位かを検査すること」。この言葉だけだと一見、中川先生が話しそうな話ですが、実はこれ、4月の塩川先生の講義の一節なんです。その上で、「考えることが楽しいんですよ」とも続けられました。セミナーの中で、いろいろな症例のお話をお聞きしましたが、「私はこう考えて、こうアジャストしました」と聞いて、改めて考えることが私たちの仕事なんだと確認させられました。

結果を出すために

 中川先生がセミナーの際によく口にされるのが、「悪いところが見つかれば、それのどこが悪いのかを見つけること」。悪いところが見つかっても、より細かなコンタクトができなければ、良い結果に結びつけることはできません。
 塩川先生もやはり、同様のことを話されました。「ガンステッド・システムでは、レントゲン撮影、ニューロカロメータ、モーション・パルペーションからサブラクセーションを決定します。ところが、いざその場所にコンタクトするときには、脊椎をカウントするんです。頚椎の5番が悪ければ、そこにコンタクトしないとダメなんです。6番では結果が出ません。そのために必ず頚椎を上から数え、きっちり5番にコンタクトするんです」という言葉は、最も中川先生が話されそうなことだなと感じました。

球界のレジェンド、王さんも長嶋さんも「素振りが大事」

 個人的な印象をずらずら書いて、お二人が気分を害されるのではないかと心配ですが、私のお二人の印象は中川先生=王さん、塩川先生=長嶋さんです。ともに優れた野球選手であったことは疑いのない事実で、ともに好球必打をイメージし毎日素振りを欠かさなかったと聞きました。また、ひとたび打席に立てば、今度はピッチャーの配球を読み、日頃の素振りの成果を発揮したのだと思います。
 この業界でレジェンドと呼ばれるお二人ともが、治療が好きで、好きな治療のため、また患者さんのために考え、基本的なことに日々繰り返し反復していたのだと思います。この「やらなければならないことを確実にやっていく」。簡単なことのようですが、50年以上にわたってとなると、そう簡単なことではなかったと思います。想像を絶する世界のような気がします。

 この日々の積み重ねが患者さんからの信頼を得、50年以上のヒストリーになっているのでしょう。私たちも、どのような患者さんが来られても、その患者さんの姿勢に変化があったとしても、何回数えても5番は5番でなければなりません。そんな当たり前のことが当たり前にできるようにならないといけないと、つくづく感じさせられたこの春でした。考えることの大事さ、触ることの大事さをお二人のレジェンドから学ばせていただきました。


辻本 善光(つじもと・よしみつ)

現在、辻本カイロプラクティックオフィス(和歌山市)で開業。
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。

 


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