代替療法の世界 第36回
「料理と徒手療法」

料理は科学

 新しい料理を作ろうと思ったとき、何をするだろうか? 普段作り慣れているものであれば問題ない。だが新しい料理は、もちろん作り慣れていない。ネットでレシピを検索するか、料理本を参照するか、どちらにしても「どうやって作るか」という情報を探すことになろう。

 なぜ、そうするのか? レシピ通りに作れば失敗がないからである。科学とは3つの要素を持つ。1つは「客観性、実証性、再現性、予測性」、2つ目は「論理性、体系性」、3つ目は「反証可能性」である。料理にはこの3要素がある。レシピ通りに作れば「再現性」がわかる。料理のジャンルを並べれば「体系性」が見えてくる。レシピに手を加えることで「反証可能性」が実証できて、それまでの説を壊すことができる。平たく言えば、既存のレシピに改良を加え、オリジナルレシピにして、もっと美味しくするということである。

徒手療法も科学

 一方、徒手療法に目を向けてみると、カイロプラクティックにしても、オステオパシーにしても科学性を謳う。であれば、先に述べたように料理のような再現性が担保されなければならないのである。中川貴雄DC(以下中川氏)が紙媒体のカイロジャーナル最終号で古賀正秀氏(以下古賀氏)の背中を追いかけてきたとあった。古賀氏の魔法のような技術に圧倒され、その再現性を目指し、発展させてきたのが治療家人生だった、ということである。

 鬼籍に入り20数年が経過しているから、古賀氏のことを知らないという読者も多いかと思う。古賀氏は全日本オステオパシー協会の設立者であり、日本におけるオステオパシーの第一人者でもある。今では多数のオステオパシー協会がある。元をたどれば、その多くが古賀氏にたどり着く。

 筆者が所属する全日本オステオパシー協会にも古賀氏の伝説的な逸話が多く残っている。例えば、手の骨格筋が委縮している受講生の頚部を調整すると、ブクブクと瞬時に委縮している骨格筋が盛り上がって来たとか。古賀氏は教育に関して、あまり詳しくは教えなかったそうである。それには意味があったのだが、意味が理解できない人、不満を持った人は早々と協会を去って行った。

中川貴雄氏の代名詞とは?

 中川氏のセミナーに流れる根幹は触診である。これはオステオパシーでも同じで「触診に始まり触診に終わる」とよく言われる。中川氏と言えば、可動性触診という代名詞であろう。この可動性触診とは、いわゆる関節の自動運動範囲を超えた動きに他動運動を加えて検査する方法である。オステオパシーでは関節の遊び検査とも言う。カイロプラクティックでいうところのモーション・パルペーション(MP)である。中川氏の可動性触診は、とても繊細でいろいろな要素が入っている。

 触診一つ取っても神経学的に述べれば、触れた瞬間にマイスナー小体が発火し、次に指先を動かしていくと、凹凸が大きいところではパチニ小体が発火する。指先が止まればメルケル盤が発火し、形や質感を感じ取っていくのである。だから触診にはある程度のスピードとリズムが必要になる。遅すぎればマイスナー、パチニが発火しなくなり、凹凸が感知できなくなる。早すぎても同様に発火頻度が増えて感知しづらくなる。適切なスピードが肝要である。

 中川氏のセミナーに何度か出席させてもらったことがあるが、練習をしていると「肩を落とした方が良い」「深い呼吸をして」などのアドバイスや、間接手での四肢牽引のポイントを指摘された。そのどれもが的確で、そのときの自分自身の課題にピッタリくるのである。受講者が多く手が回らないところは数人のスタッフを配置して、受講生がより理解しやすい方法を取っている。それこそ手取り足取り教えてくれるのだ。古賀氏とは教え方もずいぶん違うが、古賀イズムを継承している一人が中川氏であると思う。

単純明快、効くか、効かないか

 先に料理は科学であると論じた。中川DCの様に細かく料理の要素を見てみると、フランスの文化人類学者レヴィ・ストロースが料理の要素を3つ挙げている。1.生のもの。2.火を入れたもの。3.腐敗させたもの。この組み合わせが料理になるそうだ。生のものは素材を生かす刺身、サラダ等になろうか。火を入れたものは馴染みが深い。てんぷら、煮物、焼き物等々。腐敗(発酵)させたものは、みそ、しょうゆ等の調味料をはじめとして酒、ビール等、最近では熟成肉なんてものもある。

 これらの3要素の組み合わせで料理が出来上がるのである。可動性触診に料理の3要素を適用すると、1.生のものは基礎。2.火をいれたもの、腐敗させたものは応用。3.要素の組み合わせが発展になるだろう。どれもが重要である。特に料理は素材が命であり、料理の基礎になる。臨床は1つだけで良い場合もあるし、組み合わせて使う場合も当然ある。単独で使うか? 組み合わせて使うか? の取捨選択は、料理人、もとい治療家のセンスなのである。

 センスは判断力、診断力と同義である。また基礎を疎かにしていると応用、発展もないから、肝に銘じる必要性があろう。料理は美味いか、不味いか、という評価で決まる。同じく治療も効くか、効かないか、である。カイロプラクティック、オステオパシーなども共通項は同じであり、可動性がないところを見つける。次に可動性をつける。これだけである。がその道程は単純明快だが長く険しいものになる。一流料理人が料理の出来栄えに満足を知らないように、一流と言われる治療家も学びに終わりはないのだから。


山﨑 徹(やまさき・とおる)

はやま接骨院(高知県高岡郡)院長
・看護師
・柔道整復師
全日本オステオパシー協会(AJOA)京都支部長
シオカワスクールオブ・カイロプラクティック ガンステッド学部卒NAET公認施術者
 
看護師、柔整師の資格を有する傍ら、カイロプラクティックとの出会いからシオカワでガンステッドを学び、21世紀間際にスタートした科学新聞社主催の「増田ゼミ」 で増田裕氏(D.C.,D.A.C.N.B.)と出会ったことから、以後、氏の追っかけを自任し 神経学、NAETを学ぶ。現在は専らオステオパシーを学び実践しているが、これまでに 身につけた幅広い知識と独特の切り口でファンも多く、カイロ-ジャーナル紙から引き続き連載をお願いしている。

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