徒手療法の世界に身を置いて 第12回
よく受ける相談から、今回は触診について

ひと月に1本の目安で書かせていただいている本欄も、12回目となりもうじき1年になります。これまで、たとえ話を交えながら検査の重要性を書かせていただきましたが、1年も過ぎようとしていますので、よく受ける相談「触診がよく分からない」とか、「施術しても良くならない」などから、今回は触診におけるよくあるエラーと、それを未然に防ぐポイントを書かせていただきます。

触診のエラーは触診する前から始まっている

問題点を見つけるための触診ですが、触診がわからない先生の多くは、まずここで躓いています。触って悪いところを見つけるのではなく、悪いと思っているところが本当に悪いのか、また、どう悪いのかを見つけるために行うべきなのです。結局、目的を持って触診していないのです。

何を触診するのか? 何を調べるのか? という目的がないから悪いところが見つからないし、施術後の再評価につながらないのです。結局、施術しても結果が伴わないということになります。また問診や視診の情報を考慮しないと、いくら悪いところが見つかっても、全然関係のないところに施術を行うことになります。

それでわかるの?

脊柱を触診しなければいけない施術法はいくつもありますが、棘突起だけの触診で椎骨の位置異常を決定する施術家がいます。例えば、ある椎骨が左回旋しいていると棘突起は右側に変位をします。しかし棘突起が右に位置していた場合、右凸側弯(左側屈)でも右に位置しますし、棘突起は発生学上、左右の椎弓からの骨化が正中で合わさることででき上がるので、左側の骨化が早かったり右側が過形成されても、棘突起は右に位置しているように触診されます。

ですから棘突起を触る目的は何なのか? 回旋や側屈を調べたければ、棘突起だけではなく、その椎骨の横突起のどちらが後方で、どちらが下方または上方なのかを確認しなければ、間違いを生むことになります。また、本当に棘突起が右に変位をしているのなら、棘突起を右から触っても左から触っても右側にあるはずです。棘突起の全体を触ることで、その椎骨の棘突起を触ったということになるのです。

最初は大きく広く触ってみ

 腰椎の乳頭突起など小さな組織を、指先を使って細かく探している施術家がいますが、これは点を点で探すのと同じで、これでは上手く探せるわけがありません。例え対象が小さくても、最初は指腹などを使って対象よりも大きい接触で探してみましょう。指の中でも指腹は触覚の受容器が多いので、触診する上でのメリットも大きくなります。

できるだけ軽くスピーディに触る

触診が苦手な先生の大半は、不必要な強い力で触っています。特に深部にある組織ほど、強く触る施術家がおられますが、力の強さと深さはほとんど関係ありません。また、真面目な施術家ほどゆっくり触っておられますが、これも正確さとは別物です。

例えば車の運転。地面に凹凸があった場合、山なりになっているところを超えるときに、ゆっくり超えるのと速く超えるのとでは地面の変化はどちらが良くわかるでしょう? ゆっくりとしたスピードで超えればあまり上下動は感じませんが、速いスピードで超えれば上下動が大きく感じます。スピードによれば車体が地面から離れることもあるでしょう。

これと同じように、スピーディに触るとわずかな凹凸でも感じることが可能ですが、ゆっくり触るとわずかな変化が感じにくくなります。ゆっくり触るのは、その変化の場所を見つけてからでも遅くはありません。最初はスピーディに触ってみましょう。

今回は4点のポイントを書かせていただきましたが、また勉強会等で気がついたことがあれば、本欄で紹介したいと思います。お読みいただいている施術家の皆様の、少しでもお役に立てればと願っております。


辻本 善光(つじもと・よしみつ)

現在、辻本カイロプラクティックオフィス(和歌山市)で開業。
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。

 


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