徒手療法の世界に身を置いて 第2回
正確な検査の重要性、必要性を求めて – Vol.2
やってるつもりは、つもりまで
患者さんを施術する前に行う「検査」。実際に検査をしないでアプローチする施術家はいないと思います。いませんよね! では、「検査」って何のためにするのでしょうか? もちろん患者さんの状態を評価し、問題点を把握するために行われるものですが、検査をすればするほど、問題点がわからなくなる先生がいると思います。その検査の目的と考察ができていないからだと思います。
例えば可動域テスト。定義として「関節可動域測定法(Range Of Motion-Test)とは、身体の各関節の自動的あるいは他動的に動かしたときの、関節の運動範囲を測定すること」となっています。これは定義であって目的ではありません。やったつもりになっている先生は、この定義を症状の出ている関節で行っただけで、目的は果たせていないのでわからなくなってしまいます。
このことを皆さんがよく行く旅行に例えてみましょう。旅行とは「見物・保養・調査などのために、居所を離れてその土地に行くこと」と定義されています。旅行するときには必ず目的地を決めます。ディズニーランドに行きたい方は、そこに行くという目的があるから、そこまでの交通手段や日程、または施設内での行動に計画ができるわけです。でも旅行に行こうと漠然と考えている方は、これを決めることができないので、いつまで経っても計画倒れ。定義だけで言えば、千葉に家のある方が東京の会社に出勤するのも旅行になります。
そもそも、どうなん?
その昔、カレールーのCMで、彼氏が家に遊びに来る彼女のために「肉じゃが」を作るというのがあって、作るのに四苦八苦している彼は母親にヘルプの電話。すると母親は、鍋に水を足して冷蔵庫に入っているカレールーを入れて、とアドバイス。それで彼もひと安心!
このCMの彼も、きっと「彼女のために美味しい手料理を食べさせたい」という目的があって、始めた「肉じゃが」作りだったと思います。そもそもの目的は「美味しい手料理」であって、「肉じゃが」を作ることが目的ではなかったから、カレーになっても満足したんだと思います。
何かをやり出すと、それに集中しすぎて後先が見えなくなる。検査をいろいろ重ねても、結局は自分に都合の良い所見だけに頼ってしまいます。これでは誰のための検査かわかりません。
1+2+3+4=5×2で答えは10
日本の算数の授業では9×9の九九を学校で教えますが、99×99の九九を覚えさせる国もあるようです(ここまで行くと九九と言っていいのかわかりませんが…)。しかし、算数のようなロジカルなものは決まった法則があり、その法則がわかるとこのような複雑に見える計算も意外に簡単に解けてしまうのです。その法則も気づけば今まで学習した内容です。
例えば1+2+3+・・・50+51+・・・99+100=?と問題を出されると順番に足していくロジカルな方もいれば、3秒かからず答えを出す方もおられます。一見、複雑に見えるものでも見方を変えれば、意外とスムーズに答えがわかることもあります。
誰かの格言でありましたが、『三流は簡単なことを難しく考える。二流は難しいことを難しく考える。一流は難しいことを簡単に考える』。検査をしていて自分が何をやっているのかわからなくなったとき、また患者さんの問題点を上手く評価できないときは、問題点を自分のわかるところまで、できるところまで、また間違いの少ないところまで小分けしてみましょう。
答えは意外とあっさり出てくるかもしれません。問題点を(理解できるところまで)小分けにする考え方は性格のなせる業でもなんでもありません。トレーニングで身につけることができるスキルなのです。すべての検査を終えてから問題点を考えるのではなく、一つひとつの検査所見の考察(間違いの少ないもの)から考えていくと、答えは割と簡単に見つかるかもしれません。
辻本 善光(つじもと・よしみつ)
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。
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