代替療法の世界 第2回「日本におけるオステオパシーの夜明け」
男尊女卑のイロコイ明治期リードDOがまいた種子!
新渡戸家の看護師
本紙6月号(86号)にて新渡戸稲造とオステオパシーの関係性に触れた。今号では新渡戸氏に帯同していたDOに焦点を当てる。リード女史こと、レイチェル・リード(Rachel Read)である。明治25年(1892年)、新渡戸氏の妻であるメリー夫人は、産後の肥立ちが悪く米国に療養を兼ねて帰省した。その時、メリー夫人の実家に雇われていたのがレイチェル・リード女史であった。彼女は看護師の資格を持ち、献身的にメリー夫人の療養の世話をした。その甲斐あってメリー夫人は健康を取り戻した。
再び日本に帰るとき、新渡戸氏、メリー夫人ともども「日本に同行し我々を助けて欲しい」とリード女史に懇願する。この時は新渡戸氏も『武士道』を書き上げる前であり、リード女史もオステオパスではなかった。偶然とも言えるこの出会いがなければ彼らの未来も違ったものになっていたかも知れない。
リード女史と新渡戸一家は明治26年に札幌で生活する。新渡戸氏は札幌農学校で教鞭をとっていたのだが、神経衰弱を患い退職した。そして明治31年6月に自分自身の療養のために北海道を離れ、再び同地に赴いた。
オステオパシー大学へ
明治32年、リード女史はフィラデルフィア・オステオパシー大学(以下PCOM)に入学する。そして二人の人物からオステオパシーを学んだ。メイソン・W・プレスリーとオスカー・ジョン・スナイダーである。彼らは協力してPCOMを設立した。また経営基盤を支えるため私財を投げ打ってオステオパシーの教育に尽力した。
リードDOは明治34年に卒業すると、再び日本に戻り、新渡戸氏の自宅の一室にて患者の診察と治療をした。そして精力的にオステオパシーの講演を行った。中でも京都看病婦学校で行われた日本初のリードDOによる国際セミナーを記しておく。
明治37年3月15日「オステオパシーの原理及び実習」が講演される。講演後も有志の生徒がリードDOより直接実技講習を受けている。その後明治37年10月に現在の共立女子大学(神田の女子職業学校)にて講演を行った。
日本での普及活動
当時の女性の地位は現在と比べて大変低く、女性の価値を認めていたのは新渡戸稲造や新島襄(同志社大学創始者)、佐伯理一郎(京都看病婦学校校長)などの知識人であり、多くの男性は女性を重用視していなかった。そのため後述する津田梅子などは、米国留学を終えて帰国するも活躍の場を与えてもらえず失望した。
そういった中、米国人女性であるリードDOに講演の機会を与え、女子職業教育(京都看病婦学校、神田の女子職業学校)にオステオパシーを紹介するために彼女の背中を押したのも新渡戸氏や佐伯氏であった。また彼らが男尊女卑を色濃く残す明治期に、女性の価値、またオステオパシーの価値を認めていたこともこういった史実からよくわかる。
明治37年にリードDOによって初めてオステオパシーが日本に紹介されたのであるが、残念ながら彼女が伝えたオステオパシーは女子教育の中にも取り入れられず、また直接指導を受けたであろう女性たちもそれを後世には残していない。しかしながら16年後の大正9年(1920年)、山田信一氏による山田式整體術講習録によりオステオパシーは「整体術」「山田式整体術」などの名で日本に広まっていった。
輝く明治の女性として
幕末から明治を舞台に多くの大河ドラマ(NHK)が作られてきた。明治期の女性像として、主人公としてまだ描かれていない人物がいる。津田梅子である。日本からの初めての正式な女子留学生として米国にて学んだ。現在の津田塾大学の創設者である。もし津田梅子が大河の主人公になれば、オステオパシーの事に触れる可能性がある。
理由は三つ。一つ目は、新渡戸稲造氏は(津田梅子と血縁関係はないにもかかわらず)叔父さんと呼ばれるほど梅子の塾に対して援助をしたことである。二つ目は、梅子の親友でもあり、大学創立の同志でもあるアンナ・C・ハーツホーン女史(以下ハーツホーン)が、『武士道』の執筆に対し多くの助言をしており、新渡戸氏のカルフォルニアの療養先にも長く滞在していることだ。三つ目は、リードDOとハーツホーンはいとこ同士である。お互いに新渡戸氏の邸宅に寄宿するなどして親交を深めているし、札幌での集合写真にも親しかったことが見てとれる。
大河ドラマ化されるのか、さらに脚本家が彼らの親密な関係性をどう描くのかは知る由もない。それでもリードDOと新渡戸氏とのいきさつ、ハーツホーンとの血縁関係を描いてくれることを期待しつつ、オステオパシーが今以上に世に広まるきっかけになれば良いと思う。可能性は十分あろう。強い女性像が最近の流行りであるから。リードDO、津田梅子、ハーツホーン、どの女性も申し分なくその役を果たしている。
山﨑 徹(やまさき・とおる)
コメント
この記事へのコメントはありません。
この記事へのトラックバックはありません。