痛み学NOTE《第17回》
「異所性発火(放電)とは何か」

イロジャーナル70号 (2011.02.25発行)より

神経の伝導信号は電気的な発火(活動電位)に依存している。本態は膜電位の急速な変化によるもので、そのルートは受容器と脳を結んでいる。上行性には感覚が伝えられ、下行性に運動がもたらされる。その活動電位は膜のイオンチャンネルに依存した静止段階(-40~90mVの陰性膜電位:分極)からの脱分極(陽性方向への立ち上がり:活性化)と再分極(正常な陰性の静止膜電位の再獲得)の2つの段階がある。

侵害受容器に閾値を越えた刺激が加わると、その信号は脱分極と再分極を頻発しながら脳・中枢に向けて上行する。これは正常な信号の発火伝導であるが、異所性発火はこの正規の生理学のルートを辿らない。受容器からの信号とは無関係に発火放電が起こる。

故・横田敏勝教授(滋賀医科大学)は、『痛みのメカニズム』で次のように解説している。「痛覚受容器を介さずに神経線維からインパルスが発生することを異所性興奮という。異所性興奮が生じる可能性が高いのは、脱髄部および傷害された末梢神経の側芽と神経腫である(p211)」。

異所性興奮のキーワードは、何と言っても「発芽」や「神経腫」といった現象であろう。「発芽」や「側芽」といった現象は、切断や傷害された末梢神経を修復する機転としての神経の伸長現象でもある。「神経腫」は、末梢神経の切断によって近位端と遠位端に近い部位で軸索の崩壊が起こる変性である。また脱髄は、有髄神経線維が長期間にわたる圧迫に晒されたことによって起こる現象であるが、主に運動線維と骨格筋の反射調節に関わる筋求心性線維などが障害される。したがって麻痺や異常感覚の徴候がみられる。ただし、Aδ侵害受容線維の脱髄部にNa+チャンネルが発現すると自発的に興奮し、痛みなどの異常感覚が生じるとされている。

では、Na+チャンネルはどのようにして発現するのだろう。末梢神経が切断・脱髄や傷害されると、後根神経節で各種のイオンチャンネル(中でもNa+チャンネルが重要)や変換チャンネルが合成される。この切断および傷害された神経線維では、修腹機転として損傷部位に「膨大部」や「発芽」現象が起こるわけだが、その軸索の膜にDRGで合成されたチャンネルが嵌め込まれて広がる。こうして異所性興奮としての痛みが起こる。

要するに、異所性興奮は末梢神経の切断を含む傷害に伴うスパイク放電のことで、その病態は神経原性の痛みであることがわかる。さて、菊地臣一教授は根性痛とされる末梢性の痛みを、この「異所性発火」にその機序を求めているのである。


守屋 徹(もりや とおる)

  • 山形県酒田市出身
  • 守屋カイロプラクティック・オフィス酒田 院長
  • 日本カイロプラクティック徒手医学会・理事(学会誌編集長)
  • 痛みの理学療法研究会・会員
  • 日本カイロプラクティック師協会(JSC)・会員
  • マニュアルメディスン研究会・会員
  • 脳医学BASE研究会・副会

    「カイロプラクティック動態学・上下巻」監訳(科学新聞社刊)、その他あり。

    「脳‐身体‐心」の治療室(守屋カイロプラクティック・オフィス) ブログ

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