中川貴雄の臨床応用〈Web版〉
四肢のマニピュレーションのコツ [第2回]
肩関節の検査と治療
肩関節に障害が起こると日常生活に大きな支障が生じます。その状態を知ることは、患者が訴える症状や痛みの状態を見れば比較的簡単ですが、治療となると、嫌になるくらい難しく、お手上げ状態になることが多いものです。特に、「五十肩」や、症状が治まらない「腱板障害」などは、どれだけ頭をひねって治療してもよくならないことが多い肩の問題です。私にとって、「五十肩」は治療し始めてからの重要課題でした。それほど治しにくく、治りにくい肩の問題でした。五十肩初期においては治療してよくなってもすぐ元に戻ってしまう。炎症期には治療すればより一層痛くなる。後期では治療しても一向によくならない。患者は諦めてこなくなる。自分はどうしてよいか分からないので疲れ果ててしまう。これの繰り返しでした。
治療経験が50年を超えてくると、今まで見えていなかったことが見えてくるものです。自身でも五十肩は左右で3回、腱板断裂は左右で3回、肩鎖関節脱臼も左右1回ずつ経験しました。それだけの受傷経験とそれに対する数々の治療経験を積むと、肩の問題も少しずつ光が見えてきたようです。
「この症状に、この治療法はよくないけれど、あの治療法は効くことが多い」、「この治療を xx回行ったら、疼いて眠れなかったが、x回に減らしたら少しよくなった」、「この治療法は、この症状には効果があるが、あの症状には効果薄だ」などということが、おぼろげながら見えてきたのです。
そのような経験から得られたことですが、簡単な症状は別として、肩の問題は、症状の認められる肩甲上腕関節に治療を行うだけでは、残念ながら、効果がみられないことが多いということです。肩甲上腕関節に加えて、肩鎖関節、胸鎖関節、肩甲骨、肩関節周囲筋の解剖学知識、触診法、検査法と治療法、脊柱と肩関節との関連、身体の歪みとの関連などの調整を行わなければ効果を得ることができないとわかってきたのですが、これでは治療範囲が大きすぎるため、どのようにして治療を行っていくかがわからなくなってしまいます。しかし、時間はかかりますが、“一つ一つの関節、筋肉の検査法と治療法を一つ一つずつ修得していくこと”、このことが重要なことなのです。残念ながら、それができなければ、物事は始まらないのです。一つ一つの関節、筋肉の治療ができるようになってくると、自ずと、肩の治療も少しずつできるようになってくるのです。
“うまくなるためには、近道はありません” 地道な努力が必要になります。しかし、それが、うまい治療家になるポイントなのです。私が知っている上手な治療家の方々は、皆さん、見えないところで地道な努力をされています。そして、イヤイヤではなく、その努力を楽しんでおられます。
自分の仕事を楽しむという気持ちが、仕事の余裕を生み出します。仕事に余裕ができると、自分の治療法の長所も欠点も見えてきます。欠点が明確になれば、その欠点を克服するための方策も、少しずつですが考えられるようになってくるものです。私は、「五十肩」の治療法が少しわかるまでに30年以上もかかりました。でも、“そのうち分かってくるだろう”と苦しみながら楽しんで、仕事をし、勉強してきました。
しかし、自分だけで頑張ってもうまくいかないことばかりです。うまくいくためには、よい先生、よい友人、よい参考書、よいサイトを見つけることです。そして、その方々や参考書やサイトの助けを借りながら勉強を続けてください。そうすれば、きっと上手な先生になれると思います。
中川 貴雄(なかがわ たかお)
一般社団法人日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)前 会長
モーション・パルペーション研究会(MPSG) 会長
明治鍼灸大学(現 明治国際医療大学)保健医療学部 柔道整復学科教授
宝塚医療大学 柔道整復学科 教授
著書
脊柱モーション・パルペーション
カイロプラクティック・ノート1&2
四肢のモーションパルペーション上下
四肢のマニピュレーション
他
訳書
関節の痛み
オステオパシー臨床マニュアル
オステオパシー・テクニック・マニュアル
カイロプラクティック・セラピー
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