徒手療法の世界に身を置いて
第29回「中川先生の特別セミナーを受講して」
3年ぶりに中川先生のオープンセミナーが開催されるというので、以前と同じ新大阪の会場まで行ってまいりました。中川先生には一年に一度、私の主宰する勉強会に来ていただいていますが、久しぶりのオープンセミナーということで、その内容もさることながら、どんな人たちと再会できるのか、心躍らせながらの和歌山からの道のりは、あっという間に着いてしまった感じでした。
会場に着くと、もう既に科学新聞社の斎藤さんも来られていて、ラルゴの古賀さんをはじめ、モーション・パルペーション研究会(MPSG)のスタッフの方々が会場の設営をされていました。「これこれ、これなんだよなぁー」、久しぶりの雰囲気と、さらに私のWebセミナーに参加してくださっている方々、旧知の方々と次々にお会いできて、テンションが上がる一方でした。
参加者は50人を超え、前述の方々とともに中川先生の「股関節マイクロ牽引法」を5時間という時間を共有できたことは、私にとっても参加者の方々にとっても、ひいては徒手療法業界にとっても、素晴らしい一日だったと言えるのではないでしょうか。
私自身、中川先生の凄さは施術における技術もさることながら、一番はその診断力(病理的なものではなく)にあると考えていて、今回もその診断力が如何に施術における技術と結び付いているのかを、じっくり見させていただこうと楽しみに参加させていただきました。
が、同じ業界に身を置く者として、「やっぱり上手いなぁー、違うなぁー」と他人事のように感じてしまうほど、いつもと変わらない、さらに凄みを増しているとさえ感じさせる中川先生がそこにいました。
今回に限らず常に中川先生が繰り返し言われているポイントを、今日はピックアップしてみたいと思います。あくまで個人的な印象なので、そこのところはご了承くださいませ!
ここがこうなっていると、これが悪くなる
「そりゃ、そうだよな!」。説明されれば納得はできますが、実際それを受講者たちができるかどうかは別問題、そこには生体力学的な知識が必要となります。その上での予想と確認になりますが、実際はなかなか上手くできません。
今回のテーマは「腰痛とマイクロ牽引」でしたが、マイクロ牽引でどうして腰痛が良くなっていくのか? それを裏付ける知識として、アナトミー・トレインのSBL(スーパーフィッシャル・バックライン)が紹介されていましたが、このような基礎の部分の多くは、セミナーの限られた時間の中ではあまり説明されません。しかし、生体力学的な予想/推測をしていくためには重要な知識です。これなしでは予想も推測もできなければ、その先にある確認もできないからです。
この制限はここが悪い可能性がある!
SLR検査は角度のことに気を取られがちですが、マイクロ牽引を行って可動域が改善する要素の一つに軟部組織の弛緩があります。つまり、軟部組織に伸張性がないと可動域が減少してしまいます。そして軟部組織の伸張性の欠如は、可動域テストをした際のエンドフィール(最終域感)に反映されます。モーション・パルペーションでも、それらのエンドフィールを感じ取ることが重要で、このエンドフィールの違いを感じ取れることは手技を行う上では非常に重要になってきます。
何を治すのかイメージする
「できるだけ細かくイメージする」、よく中川先生から聞く言葉です。イメージと聞くと単純な解剖学を想像しますが、実際はこれだけではありません。施術する関節の解剖学図譜に始まり、問題のある筋、その筋の部位、そのときのエンドフィールから得られた問題組織までをイメージする必要があるのではないでしょうか。このイメージの違いは施術効果に大きく反映されます。
セミナーではマイクロ牽引の効果を、機械を使って再現しデータを取ったと紹介されましたが、それによると機械を使ったものでも効果はあるが、徒手(人の手)による方が効果が高いと結論付けられていました。もちろん徒手による牽引であれば、「手による感覚」などの要素が含まれるわけですが、この「イメージ」に関しても同様に人が行わなければ再現できず、機械には到底マネのできない要素です。
実際、技術的なものだけなら練習すればいい。ですが、それで中川先生と同じ効果が得られるか、と言われれば、答えは「ノー」です。この「イメージ」というのは思っている以上に施術に影響します。そのためには基本的な解剖学知識、エンドフィールを確認できる触診力と知識、どこまで影響させられるか、という生体力学的知識があってこその中川先生の技術になるのでしょう。とするならば、少なくともそれらの知識や技術を理解し習得しておくべきです。今一度、自身にそれらの知識や技術があるのか確認していただきたい。
57年の間に積み上げられたその技術は、決して足が上がらないから引っ張るという単純なものではありません。簡単にできそうに見えるものほど中身が詰まっている。上辺に見えるものに惑わされず、根本的なところに目を向ければ、自ずと再現率や成功率も上がるはずです。
このような微細な力の牽引は徒手療法界においても歓迎されるはずです。4月から開催されるMPSGでは、どのような講義が進められるのか、応援したいと思います。
辻本 善光(つじもと・よしみつ)
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。
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