徒手療法の世界に身を置いて
第25回 「整形外科テストという信用詐欺師」

目に見えるものだけが真実ではないPart2

 徒手療法において整形外科テストは、各種疾患の有無または判定に使われ、多くの教育機関で多かれ少なかれカリキュラムに入っていると思います。
 勉強し始めた頃、試験に出るからと検査名や検査法、理論的根拠などを覚えた記憶があります。良いか悪いかは別として、Aという検査で陽性が出れば、Bという疾患を示唆する。これが運命の分かれ道になります。答えが間違いではないだけに、ついついそれを信用してしまう。症状誘発のためにいろんな要素やメカニズムがあるのに、そこに目がいかなくなります。

感度と特異度

 整形外科テストも他の検査と同様に感度と特異度があります。例えばSLRテストの感度85%、特異度52%としましょう。
 感度85%ということは、ヘルニアと診断された患者さん100人に実施して、85人が陽性となり、残りの15人はヘルニアを持っているにもかかわらず、SLRテストでは陽性が出ません。
 また特異度52%ということは、同様にヘルニアのない患者さん100人に実施した場合、52人が陰性となり、残り48人はヘルニアがないのに陽性と診断されてしまいます。
 ヘルニアを持っていて陰性となった15人の患者さん、ヘルニアがないのに陽性となった48人の患者さん。合わせて200人の患者さんのうち63人(約3分の1)は適切な施術を受けることができるでしょうか?

真実はいつも1つ

 ご存知のようにSLRテストは、下肢を挙上することで症状が誘発されます。下肢の挙上は下肢後面の筋を伸張し、骨盤の後傾、腰椎前弯の減少、髄核の後方移動、椎間板線維輪後方の伸張、椎間関節/椎間孔の開大、椎間孔内の硬膜および神経根の伸張が起こり症状を誘発します。
 徒手療法家は病気の診断はしません。ここで重要なのは、身体の後方組織に伸張ストレスが加わったときに症状が出ること。そして私たち徒手療法家は、この伸張できない組織を伸張できるように施術する、または伸張ストレスが過剰にならないように施術することしかできません。ここに着目すれば、先に述べた3分の1の患者さんにも適切な処置をできるのではないでしょうか?

ミイラ取りがミイラに

 整形外科テストで大切なのは所見の取り方もそうですが、どのようなストレスがかかったときに症状の誘発があるのか? というメカニズムを理解することです。ここをしっかりと押さえておかなければ、今度はあなた自身が信用詐欺の片棒を担ぐことになるかもしれません。
 そうならないように、1つの陽性所見に飛びつくことなく、他の類似の検査と組み合わせたり、メカニズム(生体力学的要素)の考察をしてみてください。


辻本 善光(つじもと・よしみつ)

現在、辻本カイロプラクティックオフィス(和歌山市)で開業。
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。

 


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