イネイト・インテリジェンスとは何か?」第33回
本論休題2-5
【柔道整復(柔整)師についての私見】
柔整の前に、最近行われるようになった理学療法の自費診療について語りたいと思う。2018年度の診療報酬改定で、要介護認定を受けている高齢者に対して、病院外来で行う維持期リハビリは、原則として医療保険対象外となり、介護保険サービスへの移行が促された。そのため、自然発生的に自費リハビリが広がってきたらしい。公的保険の定める日数制限・回数制限・時間制限があるが、自費リハビリにはこういった縛りはない。診断された病気に対してのリハビリは医療行為であり、医師の関与なく診断の必要な病気や後遺症などに対して、治療を目的としたリハビリを行うと医師法違反である。
しかしながら、姿勢を整えるとか、身体機能の維持向上などの健康増進や予防を目的とするものは、医療行為とは区別されると解釈されているため、リハビリテーションではなく、コンディショニングやパーソナル・トレーニングという表現で自費リハビリを行うことは、明確な規制の対象になりにくい現状がある。また、医療法や理学療法士法などに無資格者による運動指導を禁止する明確な条文がないため、スポーツトレーナーや整体師が歩行訓練を指導したり、パーソナル・トレーニングのジムで、リハビリメニューを作り関節可動域の改善を行っても、医療との線引きが難しくグレーゾーンとなる。
ビジネスモデルとしては、独立店舗を構えたり、訪問サービスを行ったり、チェーン展開(デイサービスのチェーン展開に類似)したり、オンラインでの指導、また医療機関内での提供などがある。自費リハビリを行う上での問題点としては下記のようなものがある。
自費リハビリは医療機関内で行うことが可能であるが、混合診療とならないように線引きが必要で、ある疾患に対しての自費リハビリを行った日には、その疾患に対しての保険を使った投薬や診察などはできない。これは最近、整形外科開業医などで増えてきているようである。また、介護保険でもデイサービスにはリハビリに特化したものもあるが、介護保険も保険内と保険外のサービスの区分の明確化が必要である。同一施設内でこれを同時に行うと、会計処理や労働時間の厳密な按分が必要となるため、事務処理が非常に煩雑になり介護保険側から目をつけられやすい。
自費リハビリを無資格者が行う場合には、病名に対するリハビリと誤解されるような宣伝は医師法違反になる可能性が高い。例えば、腰痛などは疾患名ではないが、医療行為と解釈される可能性があると判断されやすい。しかし、体の動きを良くする訓練などであれば、問題視されにくいであろうという具合である。また、医療機関でPTが行うリハビリでは関節の動きを改善するための徒手療法が行われる場合があるが、これはあくまで医師の指示に基づく徒手療法でなければならない。医師の指示なしにPTがマッサージ行為をすると原則的には、あはき法違反である。
自費リハビリも同様で、PTが独断で徒手療法(マッサージ等)を行った場合、規制の対象になる可能性が高い。またPTが独断で病気に対するリハビリを行うと、医師法や医療法違反に問われる。現在、自費リハビリは1回60分で8,000円から12,000円程度が相場となっており、当然期間や回数制限はない。回数券を出している事業者(開業医等)もいる。保険で継続的にリハビリを行うと医療保険財政が圧迫されるため、自費リハビリに関して関係官庁は、いつでも規制可能だが現状では黙認状態である。この状態を見る限り、医師が医療における理学療法を手放すことはなく、PTが医療としての単独開業権を持つ可能性は極めて低いと考えられる。
さて、柔整師についてである。私は昭和後期に地方の柔整専門学校に入学したが、入学した頃は柔道の練習が朝昼晩とあった。必須ではないが1年生は出ざるを得ない。つまり、柔整科=柔道部であると言えた。その頃の柔道部には、横から見ても前から見ても体の厚みが変わらない、ドラム缶体型のような先輩が何人かいた。まあ、それだけでビビるが、当時の柔整部長というのが優しい人ではあったが、餃子耳で顔が尋常ではなく怖かった。何しろぎゅうぎゅう詰めの満員電車に乗っても、柔整部長の周りには20cmくらいの隙間ができたというくらいである。後に米カリフォルニア州知事になった、アーノルド・シュワルツェネッガーの「プレデター」という映画を観たとき、奥目の具合とエラや顎のしゃくれ、額の感じが、その柔整部長かと思うくらいであった。
柔道部の朝練は主に体力づくりで、近所の河川敷公園(通称、地獄のちびっ子広場)に一辺が25mくらいの正方形のブロックを敷いた区画があり、ウサギ跳びや手押し車などで進み、その四隅で腕立て・スクワット・バーピー・腿上げなどのサーキットを延々と何周も行ったり、お城の公園までの坂道を走っていって、有名武将の銅像の前で四股を踏んだり、ある八幡神社の階段をダッシュやウサギ跳びで上がったりした。この石段は300段以上あり、四層構造で一番目より二番目が長い。三番目は最も長く100段以上あるように思え、見ると心が折れそうになる。やっとの思いで三番目の階段を登ると四番目があって、ここで心が折れるという具合である。そして、これを何回も往復するわけで、何回かわからないのも心が折れる。10回登れば3000段以上になる。また、裏参道に坂道があるのだが、そこでもダッシュやアヒル歩きなどを何回も繰り返すことになる。
雨の日は腕立てと擦り上げを1000回行う。だいたい腕立ての姿勢で1000まで数えるだけで大変である。その他、腹筋やら肩車してのスクワットやらをやらせられる。高専柔道や七帝柔道の名残なのかもしれない。昼練は普通に柔道をする。寝技では落とされることもたびたびであった。夜練も柔道主体であるが、終わると今度は先輩に呑みに連れていかれる。飲み代を出したことはないが、おそらく1人10万円の部費だったのではないかと思う。たいてい安い居酒屋を3、4軒ハシゴし、午前1時過ぎくらいまでで、だいたい2回は吐く。そして、また朝の6時から朝練が始まるので、5時台に起きないといけない。当然、飲みに連れていった先輩と朝練の先輩は別の人である。1学期はこの苦行というしかないスケジュールであった。柔道と飲み会の合間に授業を受けている感じである。お陰で酒を飲むということがトラウマになった。急性アルコール中毒になった者も何人かいた。
学校では木造の道場の上が寮になっていた。1年生はその木造の寮に入り、2年生は隣の鉄筋の寮に住んでいる。まあ、柔整科は定員40名くらいであり、寮生は30名くらいいたがゴールデンウィークの頃には寮生は1/3程度になり、数名が学校を辞めていた。私は行く当てもないので寮に残ったが、練習にも飲みにも何とかついていっていたため、その後はあまりイジメられずに済んだ。せいぜい女子部員の前で、寝技をかけられ柔道着の下履きを脱がされそうになった程度であるが、柔道着を着るとき下着は着けないので、ヤバいなんてものじゃなかった。私を含め5人の1年の寮生が、部室のバリカンで丸坊主にされ、クールファイブと呼ばれたが、すぐにクールシックスになった。先輩の話では、その先輩が1年のときに夜な夜な首を絞めに来る先輩がいて、木造の寮には幽霊が出るという開かずの間があったが、その先輩はその開かずの間の押し入れで寝ていたということであった。1学期を過ぎる頃には、1年の寮生10数名は先輩からシゴかれることも少なくなった。自分たちと重なる部分があったのかもしれない。こういうイジメというかシゴキは、柔整師を増やさないためという、まことしやかな話もあった。
昭和な時代で柔整の専門学校も全国に14校しかなかった。ハラスメントなどという言葉は全くない時代である。まあ、いろいろと品のない逸話もあり、我々以前の昭和30〜40年代には、学校の理事長がヤ〇ザに脅されたときに柔整科の連中が話をつけたとか、チ○ピラに絡まれたとき相手を体落としでアスファルトに叩きつけ締め落としたとか、いつもドスを懐に入れていたとか、自殺の名所の○〇山橋で一晩宙吊りにされたとか、本当か嘘かわからない話も多々あった。
そんな古き良き?柔整もやがて大きく変わることになる。1989年(平成元年)までは都道府県知事が認定試験を行っていたが、柔整師法改正により1993年(平成5年)より国家資格になり、免許も厚生大臣の名前が入っているものになった。普通は以前とは単位数が違うわけだから、講習を受けて免許を更新することになるのであろうが、柔整師の場合は紛失届を出せば、都道府県知事発行の免許が厚生大臣のものになった。この辺りは政治力であったと思う。
そもそも、医療従事者と医業類似行為者は本質的に異なっている。最大の相違点は、医療従事者が医師の指示のもとに業務を行うのに対し、医業類似行為者は基本的に自己の判断や自身の裁量で施術を行うため、医師の指示は要らない。唯一、そうでないのは医師の許可を受けて行う柔整師の骨折・脱臼の整復くらいであろう。許可というのは、例えば柔整師が骨折の整復を行う場合、医師がその患者の全身状態を診て、整復に耐えられるかどうかを判断して許可を出す形になるため、診療科に関係なく医師であれば許可を出すことができるし、理由なく拒絶できない建て付けになっている。とは言え、柔整師が何をするかは自明なようで実はわかりにくい。なぜなら、柔道整復というものの定義がはっきりしないからである。
各法律によれば、医療従事者それぞれの定義は下記の如くである。
「医師」は、医療及び保健指導を掌る。
「看護師」とは、・・・傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者。
「保健師」とは、・・・保健指導に従事することを業とする者。
「助産師」とは、・・・助産又は妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子。
「診療放射線技師」とは、・・・医師又は歯科医師の指示の下に、放射線の人体に対する照射(撮影を含み、照射機器を人体内に挿入して行うものを除く。)をすることを業とする者。
「理学療法士」とは、・・・理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、理学療法を行なうことを業とする者をいう。
「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
あマ指師は揉み押し、鍼灸師は鍼を打ち灸をすえるなど、法律上の明記がなくても施術方法や範囲がわかりやすい。対して柔整師は、柔整師法では「柔道整復師」とは、・・・柔道整復を業とする者を言う。この場合、「柔道整復」とは柔整師が業として行うものであるとしてしまうと、論点先取の循環論法になってしまい定義にならない。柔道整復における最大の問題点は、社会通念上あるいは法律上、柔道整復自体が何を行うのか明確になっていない点である。
一般に養成施設では、「骨折・脱臼・捻挫・打撲(挫傷)に対する、整復・固定・後療法」などと習うが、法律のどこにも明記されてはいないし、それらの疾患が保険適応であるかどうかという枠組みがあるだけとも言える。また柔整師の保険取扱方法自体、医師の現物支給とは異なり療養費払いであるので、施術費は本来患者自身に請求できる。建て付けでは全額柔整師に支払った費用を、保険の方に患者自身が請求するという形が本来である。このことは前回も記したが、保険者の方が柔整師に支払いを行わない場合、柔整師は患者に施術費を請求することができ、それに応じて患者が保険者に請求するという本来の形で対応できる。保険者が施術費を支払わないのは患者と保健者の問題であるので、本質的には取りっぱぐれがない。この点、現物支給である医師はレセプトの差し戻しがあった場合、保険者が再審査請求に応じない限り支払いがなければ泣き寝入りとなる。
柔整師が保険を使えるようになった背景には、いろいろと議論があるが、私の知っている古参のレントゲン技師の話では、国民皆保険になった当時、医者もいい顔をしなかったらしい。しかし柔整師は率先して国の求めに応じたため、保険を取り扱えるようになったと言っていた。つまりは、柔整師を束ねていた当時の日本柔道整復師会(日整)が行政と深い関係にあった可能性が高いということである。そもそも、柔整自体が体育会系以上の武道会系であるので、一般の柔整師が日整の方針に逆らえるわけもない。日整の会員数は2025年3月31日時点で13,214人であり、現在も行政に太いパイプがあるらしい。
木村 功(きむら・いさお)

・柔道整復師
・シオカワスクール オブ カイロプラクティック卒(6期生)
・一般社団法人 日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)で長年、理事、副会長兼事務局長を務める
・マニュアルメディスン研究会 会員
・カイロプラクティック制度化推進会議 理事
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