岡井健DCのI Love Chiropractic ! 臨床編
第4回「先生、息苦しいんです!」

 カイロジャーナルの読者の皆さん、お元気でしょうか? 4月からスタートした月に一度の臨床報告の第4弾となります。今回取り上げるケースは、私のクリニックでもよく見られるケースです。きっと皆さんの参考になるのではないでしょうか?

 私はシリコンバレーで長く開業していました。患者の大多数はIT企業で働く人たちでした。エリート集団でも自分の健康管理は、あまり上手にできていない方が多かったです。クオリティーの高い仕事をするためにも、健康管理は重要というどころか、仕事の一部だと考えるように患者教育をしていました。

 「先生、呼吸が浅くて苦しいんです」「息苦しくて辛いんです」という主訴で来られる患者さんは珍しくありませんでした。呼吸というものは、人間が生きるために一番大切な酸素を体内に取り入れるものです。水や食物は1日摂取しなくても死にはしないでしょうが、酸素が数分なければ人間は死にます。それゆえに呼吸がしにくいという状態は、我々にとっては恐怖で非常事態となります。精神的な不安感が押し寄せ、パニックアタックともなります。これが慢性的になると鬱病にもつながります。
 

 生命維持に重要な心臓や肺を守る胸郭は、異常をいち早く察知するために、非常に敏感にできているということが言えます。特に肋骨に添って走る肋間神経は、とても繊細ですし、圧迫を受けると激痛が肋骨に添って走ります。肋間神経痛などはその代表です。実は私も高校2年のときに、急性の肋間神経痛を経験しました。訳のわからない激痛で胸が締め付けられて、心臓マヒで死ぬのかと思いました。

 なぜ、そのような状況になったかと言うと、私の通っていた福岡の高校は少し変わっていて、修学旅行の代わりに研修旅行というものがあり、福井県の永平寺で1日修行や乗鞍岳での登山などがありました。秋の乗鞍岳の朝はとても寒いのに、早朝の寝起きに屋外でラジオ体操と朝礼が行われました。ジャケットを着るわけでもなく、体操着のジャージだけで屋外に出たところ、突然、原因不明の胸の痛みに襲われ、目の前が真っ白と言うか真っ暗になって、大きな体を小さくしてしゃがみ込んで動けなくなってしまいました。

 たまたま近くにいた年配の体育教師が、私の異変に気づきました。私が朦朧となりながら、胸が痛くて息ができないことを伝えると、その先生は「そりゃ、たぶん肋間神経痛やろうけん、屋内の暖かいとこに戻っとけ!」と私に命じました。大勢の生徒の注目を集めながら、私はクラスメートに支えられヨロヨロと屋内に戻りました。

 暖房の効いた暖かい建物の中に戻ったその瞬間に、体がスッと楽になり、嘘のように普通に呼吸ができるようになりました。とは言え、また寒い屋外に戻る気もしないし、やることもないので一人で皆より早く食堂に行って朝食を食べていると、寒い中でラジオ体操と朝礼を終えて、食堂に入ってきた生徒たちが私を見て、「また岡井が仮病ば使って、先に朝飯ば喰いようばい」と、謂れのない冤罪で叱責されたのは、私の普段の生活態度のせいなので仕方がないことだったのでしょう。

 若くして私は肋間神経痛の激痛と、それによって生命の危険を感じる不安感、そして人々から向けられる、謂れのない仮病疑惑という無理解に対する居たたまれない気持ちを経験したことは、その後の臨床に大きく役に立ちました。
 

 話を元に戻しましょう。胸郭というものは肋骨、胸骨、胸椎で構成され、生命維持のための心肺機能を守る敏感なものです。肋骨の間には肋間筋群があり、内肋間筋は胸郭を収縮させ、外肋間筋は胸郭を拡張させる役割があり、呼吸に合わせて働きます。この筋肉が急にスパズムを起こして肋間神経を締めつけると、私が高校時代に経験したような状況を引き起こします。また肋間筋群が慢性的に硬くなると、胸郭の収縮拡張が上手くできずに呼吸が浅くなります。

 さらに肋骨の胸椎と胸骨との関節に注目する必要があります。肋骨と胸骨には、間に肋軟骨があって繋がっています。また、肋骨と胸椎との関節は浅くて椎体と横突起に窪みのような関節面があり、靭帯によって支えられています。このような特徴的な関節が、胸郭が収縮拡張をしやすいようにしています。

 解剖学的な構造からわかるように、胸椎の動きの低下や胸骨への圧迫は胸郭の動きを制限します。起立筋や菱形筋などの筋肉の緊張は、胸椎の動きを制限するし、サブラクセーションやフィクセーションも、もちろん胸椎の動きを制限します。そして、悪い姿勢は胸椎や胸骨への圧力を高める原因となるので、胸郭の動きの低下の原因として最も頻繁に見られるものです。呼吸が浅い、息ができないという患者のほとんどが、「姿勢が悪い」「強度のストレス」「運動不足」という負の三要素が揃った状態です。
 

 胸椎は、肋骨と肩甲骨、そして猫背の影響でフィクセーションを起こしやすい部位です。サブラクセーションをスペシフィックにアジャストするより、フィクセーションをドーサルブロックでアジャストする方が、瞬時にドラマティックな効果を生みます。ドーサルブロックでアジャストすると、このようなケースでは「息ができるようになった」と顔色が一瞬で良くなり、別人のような表情でクリニックを後にします。

 また、胸椎まわりの筋肉はもちろん、肋間筋群を指で肋骨に添って緩めてあげると、絶大な効果があります。もちろん原因の説明と姿勢の指導は必須です。ストレス・マネジメントは簡単ではないかもしれませんが、状況を変える努力はしてもらいます。シンプルなものでいいので、仕事中にできる体操も指導します。あとは本人がやるかどうかです。

 だけど最後の砦ではないですが、いざとなったらいつでもドクター岡井がいる、と安心していただけるだけでも嬉しいものです。皆さんも、ぜひドーサルブロックのアジャストメントをマスターしてみてはいかがでしょう。きっと、多くの方の助けとなるはずです。またZoomセミナーでも、解説させていただきたいと思いますので、楽しみにしていてください。
 

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岡井健(おかい たけし)DC
1964年7月4日、東京生まれ。福岡育ち(出身はこちらと答えている)。
福岡西陵高校を卒業後、1984年単身アメリカ、ボストンに語学留学。その後、マサチューセッツ州立大学在学中にカイロプラクティックに出会い、ロサンジェルス・カレッジ・オブ・カイロプラクティック(LACC)に入学、1991年に同校をストレートで卒業する。
在学中はLACCでのディバーシファイド・テクニックに加え、ガンステッド、AK、SOTと幅広いテクニックを積極的に学ぶ。
1992年、カリフォルニア州開業試験を優等で合格。1991年から1995年まで、カリフォルニア州ガーデナの上村DC(パーマー大学出身)のクリニックで、アソシエート・ドクターとして勤務した後、サンフランシスコ空港近郊のサンマテオにて開業。2001年にはシリコンバレーの中心地、サンノゼにもクリニックを開業し、サンフランシスコ・ラジオ毎日での健康相談や地方紙でのコラム連載でも活躍。
2022年8月に27年間経営したカリフォルニアのクリニックを無償譲渡し、2022年9月よりハワイ島コナに新たにクリニックを開業。庭仕事、シュノーケリング、ゴルフを楽しんでいる。
また、積極的に留学中の学生たちの面倒を見、その学生たちの帰国を皮切りに日本での活動を始める。科学新聞社(斎藤)との縁は、2005年に出版した「チキンスープ・シリーズ カイロプラクティックのこころ」の監訳に始まり、以降15年以上にわたって出版物、マイプラクティス・セミナ、カイロ-ジャーナル記念イベントなど、またカイロプラクティック・クラブとして「ソウルナイト」(スタート時はフィロソフィーナイト)など、ありとあらゆる場面で協力関係にある。

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