ブラジル、既成事実化への動き

カイロジャーナル59号2007.07.19 発行より

「カイロプラクティックは理学療法の一分野」

ブラジルの理学療法の許認可・規制機関として政府に認定されている理学療法・作業療法評議会(COFFITO)は今年2月、一般紙に「ブラジルではカイロプラクティックは理学療法の中の一専門分野である」との立場を表明する広告を掲載し、カイロプラクターを否定する強気の姿勢を示した。ブラジルでは理学療法士がカイロの技術を学ぶ100〜300時間のコースがいくつも開催されているが、COFFITOは2年ほど前からこのようなコースを支援し、修了すると理学療法士が「カイロプラクティック」の施術をすることにお墨付きを与えている。コースを修了した理学療法士は、ブラジル理学療法士カイロプラクティック協会を結成し、カイロが理学療法の一分野であるということの既成事実化を図っている。

この事態を重く見た世界カイロプラクティック連合(WFC)は、国際的な資金調達キャンペーンを開始した。呼びかけに応じ、英国カイロプラクティック協会が2万ドル、米国カイロプラクティック協会(ACA)が1万5千ドルを寄付したのを始め、日本カイロプラクターズ協会(JAC)を含む多くのWFCの各国代表団体と個人がこのキャンペーンに寄付をしている。

WFCのジェラルド・クラム会長は、WFCが一国のために寄付を募るのは極めて稀だが、今回は例外的な状況であり、カイロ専門職にとって国際的に重要な事態であるため、この寄付キャンペーンを決定したという。クラム会長は、支援を行うことを決めた経緯を次のように説明する。

  1. ブラジルではカイロを職業とすることに法規制はないが、理学療法を職業とすることには法規制が掛けられている。理学療法士は国の規制機関であるCOFFITOを通じて理学療法の専門分野をつくる権利がある。
  2. 2001年以来、ブラジルカイロプラクターズ協会(ABQ)はカイロ法制化運動を行ってきた。カイロ法案は議会に提出済みで、採決に向けて検討の最中だったが、この件に関してCOFFITOからの強い反対があった。
  3. COFFITOはこのABQの動きに対し、カイロは理学療法の一専門分野であると主張したのである。COFFITOはカイロの認定証を理学療法士に発行し、理学療法士向け週末プログラムを支援している。そしてこのプログラムの卒業者は理学療法士カイロプラクティック協会を結成し、カイロ法が採択される前にカイロが理学療法の一分野であるという既成事実をつくろうとしている。
  4. もしこのようなことがブラジルで成功したら、他のラテンアメリカ諸国にも動きが広がるだろう。チリの理学療法士がすでにカイロ講座を計画している。これらのことはカイロの法規制のない他の国々に影響を及ぼすだろう。
  5. ABQには125人の会員がいるが、その多くが卒業したばかりのカイロプラクターであり、その経済基盤が弱い。また、昨年の全国会議からの負債もあり、法制化キャンペーンのための資金が欠如している。
  6. そのため、ABQとは別の法制化委員会がABQの前会長によって組織され、法制化キャンペーンを行ってきた。彼らのボランティア的努力により法制化は政府内の合意を取りつつあったが、ABQも法制化委員会も負債を抱え、国際的な緊急支援が必要である。
  7. 彼らは、国際的なアピールをWFCに要請し、WFCは1月30日の電話会議により支援を決定した。

WFCは最初の資金調達目標を75,000ドルに設定した。これは90年代に英国カイロプラクティック協会が法制化キャンペーンのために集めた資金が5万ドルだったことなどから算出した。

チリ、スペイン、エジプトなどの理学療法界でも似た動きが起こっており、ブラジルの影響が世界各地に飛び火しつつあるのではないかと懸念される。

カイロが医療専門職として確固とした地位を築いている米国では、その権利を獲得するために医師との長い闘争の歴史がある。カイロ法制化の途上国ではこれからは、医師に代わり理学療法士がカイロ法制化の阻止勢力となるのだろうか。カイロ専門職が国際的な視野で監視すべきことであろう。

WFCを通じてのブラジル支援のための個人、法人の寄付についての詳細は、WFCのURL=http://www.wfc.orgで入手できる。

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