徒手療法の世界に身を置いて
第28回「『人』という字は、人と人が支え合ってできている?」

コロナも5月8日から第5類になるようで、今後はさらに人と人の交流が盛んになっていくことだろう。
 

「人」という字の成り立ち

 もうだいぶ前になるが、「3年B組 金八先生」というTVドラマがあって、武田鉄矢さん扮する国語教師、坂本金八が生徒たちと共に問題を解決していく内容だった。毎回、ドラッグや性同一障害、性の問題まで取り上げていた。毎シリーズ、売れっ子タレントが生徒役で出演していたのも話題となっていた。現在、参議院議員の三原じゅん子さん、上戸彩さんも性同一障害を抱えた生徒役で出演していた。「腐ったミカン」もこのドラマから話題となった。

 さて、そんな金八先生が生徒を前に話す一幕に、「人という字は人と人が支えあってできているんだ!」という名台詞があった。そこで「人」という字の語源を調べてみた。象形文字に分類されるもので、人間が立っている姿を横から見たときの形ということであった。このことからもわかるように、決して支え合っているわけではない。金八先生の言葉だと、一方的に左の人間が右の人間にもたれかかっているだけで、支えているのは片方だけになる。
 

仁者人也/仁は人なり

 次に、孟子や孔子が残した言葉によく出てくる、例えば「巧言令色少なきかな仁」などの「仁」という字について調べてみた。「仁」は優しさや、思いやりを表す言葉であり、「人と人が親しく接する」という意味もあり、それを好んで使ったようである。確かにそういう意味で、二人の人間が親しく接する形であれば、支え合っているように見ることができなくもない。たぶん「金八先生」の脚本家は、そのことを知った上で、「人」という字について言わせたに違いない。
 

親しくなるにはコミュニケーションが大切

 先の文字を徒手療法の世界で考えると、人と人が接する、常に思いやりの気持ちを持って臨むことを示唆してくれる文字だと思う。そのためには、コミュニケーションがいかに大事かということになる。例えば問診一つとっても、信用できない人間には日常生活の細かなことや、家族歴に代表されるプライベートなことをいきなり話してはくれない。逆の立場であれば、あまり話したくないのが本音だろう。しかし、そういった情報が大いに施術に影響することも少なくない。

 言い方を変えれば、最初の段階から上手くコミュニケーションが取れていれば、施術の方向性が定まるだけでなく、信頼関係もより良いものになるはずである。この信頼関係は患者さんの予後にも大きく関わることは言うまでもない。

 今後、不織布のマスクを外す機会が増えてくるのは間違いない。マスク(仮面)を被って仕事に専念するのも良いが、先ずは患者さんに興味を持ち、人間力を育てることの方が、より良いコミュニケーションを行えるのではないだろうか?
 
 とにもかくにも私たちの仕事は人と人の関係から始まるのである。


辻本 善光(つじもと・よしみつ)

現在、辻本カイロプラクティックオフィス(和歌山市)で開業。
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。

 


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