痛み学NOTE《第1回》
今、なぜ痛みなのか?2009.03.18
カイロジャーナル64号 (2009.3.18発行)より
今さら痛みなんて、と思われるかもしれないが「忌まわしきもの汝の名は痛み」で、いまだに未知の部分が多い。日々、臨床で親しんでいる症状ではあっても、手ごわい存在である。このことはすべての医療にかかわる者にとどまらず、研究者にとっても、社会経済上でも、今なお難題なのである。
そんなわけで、アメリカ議会は21世紀初頭の10年を「痛みの10年(Decade of Pain and Reserch;2001~2010年)」と位置づけるバイオメディカルサイエンス振興策を宣言した。アメリカ政府が如何に痛みの研究を最重要課題にしているかが窺えるであろう。
今なぜ痛みなのか。実は、アメリカでは痛み対策に莫大な国家予算が導入されてきた背景がある。それもこれも痛みの実体やメカニズムが本当はよくわからず、決定的な治療法もないという実情を反映している。痛みに対する不適切な治療など、社会経済の国家的損失は莫大で、損失推計だけでもなんと年額650億ドル(約9兆円)にものぼると言われている。そのためにアメリカでは1970年代から疫学調査を行い、適切な痛み治療を行うことで1996年には個人的医療費の約60%も節約できるだろう、という推計も発表した。
1998~1999年にかけて行われた全米における実態調査によると、高度の慢性痛に悩まされている患者は成人人口の9%に及んでいたのである。
同様の社会事情を抱えている日本やヨーロッパでも、痛みの調査研究はやはり重要な課題である。
こうした取り組みは、おそらくアメリカがさきがけであろう。このバイオメディカルサイエンス振興策が最初に宣言されたのは、クリントン政権化の1990年である。それは「脳の10年(Decade of Brain)」としたスローガンで、20世紀最後を飾るにふさわしい振興策であった。その成果が今日の脳科学ブームの下地になっている。なにしろ脳の研究が大きく展開した。
痛みの研究も、このアメリカの国家的プロジェクトによって進展することが予測される。それと関連して、整形外科領域では「運動器の10年」(Bone and Joint Decade)として21世紀初頭が位置づけられており、医科学に関する視点は活動性に向けられるようになっている。こうした研究が、国家的プロジェクトで進められていることには注目である。
日々、痛みを持つ患者と向き合うことが多いカイロプラクティックも、痛みのメカニズムを再構築するときが早晩くるように思われる。
人間の歴史と共にはじまった痛みは、研究、考察そして治療の対象であった。カイロプラクティックも人間の日常的な痛みを取り扱ってきたし、その解明にも自説を主張してきたように思う。しかし、カイロプラクテックが言及してきた痛みの根拠には、大きな疑問も見え隠れする。
痛みの生理学的な解明が待たれるところだが、21世紀に入って痛みは古くて新しいテーマとして浮上してきたのである。
守屋 徹(もりや とおる)
- 山形県酒田市出身
- 守屋カイロプラクティック・オフィス酒田 院長
- 日本カイロプラクティック徒手医学会・理事(学会誌編集長)
- 痛みの理学療法研究会・会員
- 日本カイロプラクティック師協会(JSC)・会員
- マニュアルメディスン研究会・会員
- 脳医学BASE研究会・副会
「カイロプラクティック動態学・上下巻」監訳(科学新聞社刊)、その他あり。
「脳‐身体‐心」の治療室(守屋カイロプラクティック・オフィス) ブログ
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