イネイト・インテリジェンスとは何か?」第31回
本論休題2-3
【理学療法士についての私見 1】
まず、これは私の狭い経験からの話であり、ほとんど憶測で偏見もあることを明言しておく。
医療従事者と言われる人たちには、医師、歯科医師、薬剤師、助産師、看護師、臨床検査技師、診療放射線技師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)など数多くの職種があり、基本的に医師を頂点としたピラミッド構造になっている。この中で歯科医師・薬剤師・助産師は開業権を持つ。助産師は看護師と助産師の2つの国家試験に合格しなければならないが、医師の指示によらず正常分娩の介助ができる。年収は20代後半では500万円台、40代後半では600万円台である。
医者からすれば、大っぴらには言わないが歯科医師や助産師は格下の限定資格であり、薬剤師は基本的に医師の補助を行う業務資格であると言える。その中でPTがどういう立場であるかと言うと、私は昭和の終わり頃から整形外科に勤務していたが、介護保険が始まった2000年にはまだPTは少なく、開業医はPTをチヤホヤし、勤務医は疎む傾向があった。理由は簡単で、1990年から2000年初頭にかけての高齢者対策である、一連のゴールドプランからの介護保険制度開始に伴い、介護施設を作ると濡れ手に粟の状態であったからである。鼻が利く開業医はそれに飛びついた。そのため、古参のPTで学校設立に関与していたような人は口入れ屋のようなもので、PTを斡旋するため医者に対しても上から目線であった。
介護保険制度の枠組みができると、PTがいることで高い保険点数が取れる形になった。早く始めた人ほど実入りが大きく平たく言えば金になった。初期は濡れ手に粟の状態で、天下りした官僚が医師やPTなどを巻き込んで施設をつくり、バスで送迎して映画などで時間を潰し、また集団でラジオ体操をさせて帰すだけで相当な金額になった。なぜなら、厚生省(2001年に中央省庁再編により厚生労働省となった)が施設を増やすために、初期には儲けを大きく設定していたからである。そして、施設がある程度増えたあとの介護報酬改定はマイナス改定で、実質的な儲けは当初の半分程度になってしまった。それ以前に官僚主導の施設は払い下げられていた。
勤務医にとっては、そんなことは全く関係なかった。日々の診療に追われる勤務医にとって、リハビリは患者が自分でやればいいだろう程度の認識しかなかった。そのため、リハビリ計画や評価をいちいち言ってくるPTは面倒なだけの存在であった。
学校ができてもPTが少ない時代には、PTが医師にいろいろ指図していたこともあったであろう。そのため、昭和末期から平成初期のPTは病院内でかなり威張っていた。結果的に軋轢が生じていた。例えば、看護師などは全科に関わりを持ち、オペ看などは結構な修羅場を踏んでいるので気が荒い。新米の医師などは歯が立たない。そういう彼女たちにすれば、リハビリなどどうでもいいとは言わないが、まあ生き死に関係ないし、リハビリ自体にどれほどの意味があるのか、やらないよりやった方がマシだろうが、大して役にも立たないだろうという考えもあったかもしれない。まあ、PTに言わせれば、プロとしての意地があり当然の主張をしているだけという思いがあったのであろう。
リハビリが日の目を見るようになったのは、平成の中頃からQOL(Quality Of Life)生活の質とか、ADL(Activities of Daily Living)日常生活動作とかいう言葉が取り沙汰され、リハビリは昭和期のやっても無駄なものという考え方から、やらなければいけないものという介護保険的思考にシフトされていったと思われる。施設基準や保険点数の変更に伴い、保険内での書類作成などの業務も複雑化し、国家資格であるというプライドもあり、PTができる以前にリハビリを担っていた、あマ指師のように、適当な業務はできなくなっていったであろうから、以前を知っている看護師から疎まれるのは、ある意味自明であったと思われる。こういうところが、他の医療従事者との軋轢を生む原因になっていたであろう。
さて、そういう時代の医療従事者がほとんど引退した今、PTは人余りの時代を迎えている。新米の若手が大量に出てきたお陰で、医療従事者間の軋轢は減少していったと思われる。1990年代後半、医療・介護現場でリハビリ専門職が不足しているとされ、厚生省や文部省が養成施設の設置要件を緩和した。これにより、将来性がある国家資格として、リハビリ系学科の新設を相次ぎ、入学人員が増えていった。学校側も濡れ手に粟であったことだろう。前回書いたようにPTは単純計算で、10年で10万人増え、現在20万人ほどいるから、単純にこのままいけば10年後には30万人、20年後には40万人となる。引退する人数を考えても、供給数が需要数を超えるのは時間の問題であろう。
では、余った彼らが今後どのような道を歩んでいくかと考えれば、基本的にPTがリハビリで開業することはできないし、現状ではそれほど実質的な価値もない。そもそもリハビリが保険でできる以上、自費でのリハビリのみの施術にニーズがあるわけもない。誰でも開業できるのはデイサービスや訪問看護ステーションであるが、赤字経営の施設も多い。指定訪問看護ステーションにおける管理者は、看護師または保健師でなければならないが、開業する事業者は誰でも良い。当然PTや柔整師でも良い。ただし、デイサービスなどは初期費用が結構かかるし、施設の面積も利用者1人につき3平米以上とそれなりに必要である。
開業場所にもよるが、設備費や車両費等の開業資金が約500万円、人件費や家賃等の運転資金が約1,000万円程度と言われている。訪問看護ステーションでも500万円~1,000万円程度必要で、大半は人件費であり、あとは事務所の賃貸費用や設備費であるが、これはすべての保険報酬に言えることであるけれども、保険報酬は申請してから入金までに2カ月程度かかるので、新規開業の場合はそれまでの運転資金が必要である。資金調達に日本政策金融公庫などを利用する場合も、施設の少ないうちの方がより借りやすい。
このような介護保険サービスを提供する事業者は、都道府県知事や市町村長から指定を受ける必要があり、サービス種類ごとに定められた人員基準、設備基準および運営基準の審査に通ることが必要である。このような審査は、制度が発足した当初の方がより緩い。担当行政は施設を増やしたいし、また審査する者も慣れていないこともあり、細かいことは言われない。また、地区によって緩さは異なる。
このような介護保険下でリハビリ施設をPTが、独自に理学療法として開業できる可能性はほとんどなく、そもそも法律の立て付けで医師の指示の下に理学療法を行うことが定められているため、理学療法での独自開業は自費でも不可能である。また、みなし通所リハビリなどのように介護保険下なので、リハビリは既に充実しており、それを開業医が手放すことはあり得ない。
みなし通所リハビリについて説明すると、現在、健康保険法の保険医療機関に指定された診療所は、介護保険法による医療系サービスの事業者として自動的に指定される。これを「みなし指定」と言う。基準に合ったリハビリ・スペースを確保しておけば、PTは医療保険だけでなく、介護保険からの報酬を得ることができる。これをみなし通所リハビリ、あるいは短時間通所リハビリと言い、PT 1人あたり10人のリハビリを同時に行える。医療保険のように期間制限がないため、継続してリハビリを行うことができるが、同一スペースで医療と介護のリハビリを行っている場合、みなし通所リハの1回あたりの利用時間は1時間以上2時間未満(2時間以上3時間未満、3時間以上4時間未満という区分もある)と制限されている。
また、利用者1人あたり3平米が必要であり、PT 2人で各10人行う場合、60平米のスペースが必要となる。みなし通所リハビリでは利用者の送迎が原則として基本報酬に含まれており、利用者は介護認定されている必要がある。上記の場合だと介護認定によって保険点数が変わるが最低でも利用者1人につき最低でも300単位で、1点10円が基本であるので3,000円、10人やれば30,000円であるが、さまざまな加算・減算項目があり、さらに金額は上乗せされることが多い。これがPTに全額行くわけではなく、施設管理者=医師からさまざまな経費を引かれ、PTには1/3程度行けば良い方であろう。
これは1対1での施術ではなく、ラジオ体操のように集団で身体を動かしたり、運動器具(トレーニングマシン)などを複数用意して患者に一斉に運動させるような形である。厚労省からは、維持期のリハビリは医療保険から介護保険へ移行する方向が示されているため、開業医の整形外科は外科と言いながら手術をすることはなく、特にみなし通所リハを行なっているような整形外科は老人運動器内科になっている。また、そこに就職するPTも、ほとんど老人相手になることが多い。唯一若い者が来るとすれば、自賠責つまり交通事故の患者くらいである。
また自賠責の場合は、運動器リハビリ料がⅢの85点だとすると、医療保険では1点10円で850円だが、自賠責の場合1点20円で1,700円になる。この1点20円は地域医師会での取り決めなどがあるが、要は医者の言い値で1点25円でも30円でも良い。自賠責の金額120万円を超えた場合、バブルの頃とは違い現在は請求時に減額を要求されることもある。さらに自賠責への請求の中には、治療費、診断書料、通院交通費、休業損害、慰謝料などが含まれており、合算で120万円を超えた場合は、加害者側の任意保険や加害者本人に請求することになるが、任意保険者はなるべく任意保険を使いたくない。任意保険者は医療機関に治療の方を国保などに切り替えてもらって、国保で立替払いをすることで1点25円を回避することが多いが、当然医者は実入りが減るので嫌がる。
被害者の方は過失相殺がある場合、例えば7:3とすると医療費は自賠責から全額出るが、その差額分は慰謝料から引かれる形になる。単純に医療費を80万円だとすると3割の24万円は120万円の残りの40万円から引かれるので、慰謝料や休業補償で自賠責に残っている金額は16万円しかない。任意保険はなるべく自賠責の枠内で収めたいので、被害者に早めに国保に切り替えることを勧めたりする。国保にすれば医療費は40万円で済むことになる。
また、例えば被害者が大企業の総務部部長などであると、ムチ打ち程度であれば任意保険の方はいくらでも金を払ったりする。商用車の任意保険を他の会社に変えられてしまうより、はるかに損失が少ない。
木村 功(きむら・いさお)

・柔道整復師
・シオカワスクール オブ カイロプラクティック卒(6期生)
・一般社団法人 日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)で長年、理事、副会長兼事務局長を務める
・マニュアルメディスン研究会 会員
・カイロプラクティック制度化推進会議 理事
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