体内環境を一定に維持
地球に生物が存在できるのは、気温や大気中の酸素の濃度など、環境面の極めて微妙なバランスが保たれているからです。それと同じように、人間も生命を維持するためには、体温、血圧、水素イオン濃度を示すペーハー(pH)値、血糖値、電解質濃度、血清たんぱく質量などが一定の幅に保たれている必要があります。
このように、体内環境を一定の範囲内に保とうとする現象のことを、恒常性(ホメオスタシス)と呼びます。恒常性の維持は生きていくための最低条件であり、体内環境のバランスが崩れると、人間はたちまち生命の危機にさらされます。体温が摂氏7度上昇すると細胞の破壊が始まり、pH値は正常値の7.4から0.5上下するだけで人間は生きていられなくなるのです。
恒常性の維持は、体にとって「どうしても譲れない」大事なことです。体が恒常性を保とうと努力する様子は、火事の真っ只中に自分の犠牲を顧みず、子供を必死に守ろうとする母親に似ています。体は、生命維持に直接関係のない部分をないがしろにしてでも、最も大切なもの、生命を守ろうとします。詳しくは後述しますが、体のさまざまな不調は、そういった体の犠牲の結果です。
ネガティブ・フィードバック
生まれた瞬間から死ぬまで、脳や臓器は一時たりとも休むことなく恒常性を保つために働いています。恒常性を維持するということは、例えて言えば起き上がり小法師(おきあがりこぼし)が、押されて傾いたり倒れたりするたびに、自分でバランスを取って起き上がろうとする様子に似ています。
体は、体温が上昇すれば汗を出し、体温が下がれば毛穴を閉じて、体全体で震えることによって体温を保とうとします。血糖値が上がればインスリンを分泌し、血糖値を下げようとします。反対に血糖値が下がれば、エピネフリン、ノルエピネフリン、コーチゾールなどを分泌し、正常値に引き上げようとします。このように、乱れた体内環境を元に戻そうとする仕組みを「ネガティブ・フィードバック」と言います。
体の悲鳴の真意
この極めて重要な恒常性を保つという作業は、体にとって決して容易なことではありません。脳を含むすべての臓器が協力し合って、はじめて可能になります。
体が余裕を持ってこの作業を行えている間は、病気になることはありません。エネルギーに満ち溢れて気分も良く、ケガをしたり、忙しいスケジュールがしばらく続いたりしても、すぐに回復します。これを“若さ”と一般的には呼ぶのかもしれませんが、これは恒常性を保つために十分以上の栄養が体に存在し、すべての臓器が元気良く健全に働いているからです。
一方、体内に栄養が足りないと臓器は疲労回復が追いつかず、存分に働くことができなくなります。そのうち、恒常性を保つためだけに大半の栄養とエネルギーを使うようになると、ストレスに対処する余裕のなくなった体は、些細なことで体調を崩したり、気分の落ち込みからも回復できなくなったりします。
例えば、小さな子供を育てながら仕事もされているという女性は、たくさんいらっしゃると思いますが、ご主人が長期出張中に子供が風邪をひき、ご自分も仕事が忙しく生理前の体の辛い時期とも重なり、体調を崩してしまったという経験をお持ちの方も、かなりいらっしゃると思います。元々体が栄養やエネルギー的にギリギリの状態で回っていたために、子供の通院や看病、仕事の繁忙期が重なるといった余計なストレスに、体が上手く対応できなかったのかもしれません。
これは、家賃や食費も払えないほど経済的に苦しいときに、趣味で購入したギターやバイクを売り払ってでも最低限の衣食住だけは確保しようとすることと似ています。その場はなんとかしのげても、楽しみを手放した生活に張り合いはなく、やがて売り払うものもなくなると、食費をさらに削り勤務先から遠くて不便な土地に引っ越さないといけなくなるかもしれません。
このように、言ってみれば自転車操業に近い状態で栄養やエネルギーをやりくりする状態が長期化すると、やがて体は疲れ切り、さまざまな症状が現れます。それらは恒常性を保つために体がもがき苦しんだ結果であり、決して無意味に起きているわけではありません。
次に示すのは、体が出す典型的な警告サインです。
- 疲れやすい・常に疲れている、体に無理が利かない
- ケガをしやすい、ケガをするとなかなか治らない
- 髪の毛がよく抜ける、薄くなった
- 爪が弱くなった
- 肌の調子が悪い、しみ・しわが増えた、化粧ののりが悪い
- 体が硬くなった、首・腰・肩・関節が痛い
- ホルモンのバランスの乱れ
- 月経前症候群や生理痛がひどい
- 不妊
- 太りやすくなった、体重が落ちにくい
- うつ、不安症
- 不眠症
- 頭痛
- 尿路感染症、膀胱炎、口内炎、副鼻腔炎
- 胃潰瘍
- 過敏性腸症候群
これらの不調や症状は単なる加齢現象であり、どうすることもできないと諦めている人が多いかもしれませんが、そうではありません。思い当たることのある人は、自分で自覚する以上に体に負担をかけている可能性があります。症状を薬で隠す前に、真の原因であるストレスを突き止めて取り除く、もしくは軽減し体が必要とする栄養を供給することが大切です。
体の警告を無視して栄養不足を放置すると、やがて恒常性を自分の力で保てなくなります。こうして医療の助けが必要になった状態が病気です。
最後に、恒常性を保つことの重要性にいち早く気づいたハンス・セリエ博士は、次のように言っています。
“明らかに、病気とは単なる苦しみではない。病気とは体を犠牲にしてでも恒常性のバランスを保とうとする闘いである。”
“Apparently, disease is not just suffering, but a fight to maintain the homeostatic balance of our tissues, despite damage. ”Hans Selye. 1986 The Stress of Life. McGraw-Hill, New York, P.13.
和泉宏典(いずみひろのり)DC
- 1970年 京都府宇治市出身
- 1992年 同志社大学卒業
- 1999年 University of Georgia卒業
- 2003年 Life University卒業、ジョージア州アトランタにて開業
- 2010年 ニューヨーク州マンハッタン郊外にてIzumi Family Chiropractic and Wellnessをオープン
- 2021年 フロリダ州に移住
- 資格
- ドクターオブカイロプラクティック
- ダイジェスティヴヘルススペシャリスト(Food Enzyme Instituteの認定医)
Dr. Izumiの人となりを詳しく知りたい方は以下のリンクをどうぞ
https://www.izumiwellness.net/about-dr-izumi.html
終了したセミナー
投稿: 2001年4月19日
『カイロプラクターのための栄養学』Web第Ⅶ期「脳の健康」 (izumi_Nutrition_Ⅶ) 定価¥15,400販売価格¥15,400在庫状態 : 売り切れ※こちらのセミナーは終了いたしました 日時 5月22日(日)、6月5日(日)、19日(日)、7月3日(日) 全4回 8:00~10:0...
投稿: 2000年11月10日
『カイロプラクターのための栄養学』第Ⅴ期「触診と視診でわかる患者の健康状態」動画配信 (izumi_Nutrition_202110) 定価¥15,400販売価格¥15,400在庫状態 : 売り切れ動画配信開始日時:2021年11月29日(月)10:00 動画配信終了日時:2022年 1月 6日...
投稿: 2000年11月9日
『カイロプラクターのための栄養学』Web第Ⅵ期「栄養学における美容とアンチエイジング(抗加齢)」 (izumi_Nutrition_Ⅵ) 定価¥15,400販売価格¥15,400在庫状態 : 売り切れ※こちらのセミナーは終了いたしました。動画視聴ご希望の方は、Webセミナー事務局 sci-pub...
和泉宏典に関する記事一覧
投稿: 2024年10月24日
今月13日、14日に開催した、第2回カイロプラクティック・フェスティバル「TIME & SPACE 時空をともに」を終えて、今後このイベントを毎年恒例のものとするため、今回を振り返り数回にわたって連載させていただくことにした。まず今回、開催に至った経緯を紹介させていただく。本サイトでコラムを連載中...
投稿: 2024年10月18日
10月13日(日)、14日(祝)の両日に行われた第2回 カイロプラクティック・フェスティバル2024 『TIME&SPACE 時空をともに』 に参加した。今回はその感想を書いておきたいと思う。このイベントは、科学新聞社カイロ事業55年、カイロジャーナル35年、第1回から15年の節目に行われたが、主催者の斎...
投稿: 2024年10月7日
今回のスピーカーの中に、もう一人「呼び捨てで」という男がいる。丸山である。先に紹介した辻本は、講師紹介で先生、さんと呼んでも、それはそれと軽く流してくれるが、丸山は即座に「やめてくださいよ、いつも通りに呼んでくださいよ」と言葉を挟んでくる。お陰で「あれっ、これから何を話そうとしてたんだっけな?」と忘れてし...
投稿: 2024年10月4日
小倉氏と初めてお会いしたのは、もう30年以上も前のことである。1993年に業界の法人・法制化を目指し糾合したカイロ連(日本カイロプラクティック連絡協議会)が、設立準備のための会議を盛んに開いているときだった。AJCA(全国カイロプラクティック師会)という団体から、三十歳そこそこの若さで出席していた。と言っ...
投稿: 2024年10月3日
いつから親しくなって、呼び捨てにするようになったのか全く覚えていないが、また当人が本気で言っているのかどうかわからないが、「斎藤さんに、先生、さん、君づけされたら、かえって気持ち悪いですよ」と言うので、本欄では普段通りにさせていただく。不快に感じる方もいらっしゃるかもしれないが、どうかご容赦いただきたい。...
投稿: 2024年9月29日
「『さかきばら』の5文字が長いんで、別な呼び方をしたいんですけど、今まで何と呼ばれることが多かったですか?」と失礼極まりないことを聞いても、「そうですよね、長いですよね、たぶん、そんな理由からなんでしょうね! 大学時代は『さかき』と呼ばれていました」とさらりと答えてくれる。いつの間にか、吸い取り紙のように...
投稿: 2024年9月26日
1980年代前半の頃、日本橋の氏のオフィスに出入りしているうちに、ほぼ同世代のスタッフ(芝崎、神庭、伊東、建部氏ほか)と仲良くなっていった。そうこうしているうちに、いつの間にか私も氏をドクターと呼ぶようになっていた。特に芝崎氏とは、その後、ドクターのビデオや書籍を、ルネッサンス・ジャパン=作る人、科学新聞...
投稿: 2024年9月24日
私が科学新聞社で、こうやってのうのうとやってこられたのも、中川氏のお陰と言っても過言ではない。ご夫婦で鰻の寝床のような当社の旧社屋に来られたのは、40年以上前のことだった。その頃はまだカイロの仕事が回ってきてなくて、らしきものと言えば、休日のセミナー等での展示販売要員か、塩川満章氏や須藤清次氏のところへ使...
投稿: 2024年9月20日
彼とのお付き合いは比較的浅い。まだ5、6年ほどといったところだ。コロナが大騒ぎになる直前に、「日本で栄養学のセミナーを開きたい」と連絡をいただいた。お会いしたことはなかったが、和泉さんと聞いて「ん、アトランタの矢島さんがオフィスを引き継いだのがIZUMI CHIROPRACTICだったな!」と思い出し、聞...
投稿: 2024年9月17日
彼との出会いは2004年、ちょうど20年になる。なので、2009年の第1回フェスのときも登場していただいている。30数年前に幾度かLAの中川先生のところに行ったことがあって、LACC在学中の彼の存在は、先生やLA在住の幾人かのDCから聞いていた。が、会って話すというところまではなかった。 20年前、その...
投稿: 2024年9月12日
9月21、22日の洞爺湖、29日の3団体合同イベントの募集も山場を越えたようなので、そろそろ私が段取りを進めている10月のイベントを、本格的に募集させていただこうと思う。 まず日程を簡単に紹介させていただくと、5日(土)、6日(日)は毎年秋の恒例となっている「岡井健のマイプラクティス2024」。今年のテ...
投稿: 2021年11月12日
昨年4月に開催予定だった、和泉宏典先生による「カイロプラクターのための栄養学」が10月24日(日)に、満を持して開催されました。 1年半の間Webセミナーとして開催される中で、回を重ねることに評判を呼び、参加者数も当初の倍にまでなる人気セミナーとなりましたが、今回は和泉先生も主催者も待望の対面セミナーの実現...
投稿: 2020年3月17日
Mさんは慢性の肩こり、頭痛、疲労感で来院されました。これまで様々な医療機関、マッサージ、鍼、気功、カイロプラクティック・・・などを試したのですが改善が見られず、なぜ私のところに来られたかと言うと、虚弱だった彼女の母親が私のところの治療と指導で元気になられたからでした。 鎮痛剤で痛みを抑えても、...
投稿: 2020年1月17日
Yさんの場合 Yさんは幼稚園の先生をされている47歳の女性です。椎間板損傷(線維輪断裂)による腰痛で来院されました。つまり腰椎の骨と骨の間にある、クッションのような役目をする椎間板が弱って傷ついている状態です。 仕事では、立ったり、座ったり、お遊戯をしたりと、結構ハードな肉体労働に加え、家族間の悩みも多く、...
投稿: 2019年12月17日
体内環境を一定に維持 地球に生物が存在できるのは、気温や大気中の酸素の濃度など、環境面の極めて微妙なバランスが保たれているからです。それと同じように、人間も生命を維持するためには、体温、血圧、水素イオン濃度を示すペーハー(pH)値、血糖値、電解質濃度、血清たんぱく質量などが一定の幅に保たれている必要がありま...
投稿: 2019年11月17日
Tさんは30代の男性で、小さい頃から皮膚炎に悩まされていました。ステロイドの軟膏と抗ヒスタミン剤は、過去25年以上にわたって使い続けていました。彼の食生活を詳しく窺ってみると、パン、麺類、乳製品が大好物で、小麦製品と乳製品は、毎日必ず何らか摂取している状態でした。 私どものクリニックでは、アレ...
投稿: 2019年10月30日
忙しい日本人の典型的な1日は、朝の満員電車から始まり、職場に着くと1日中コンピュータ画面に向き合って作業を続けます。仕事の締め切りに追われ、胸が痛くなるようなストレスを感じながら、残業を何時間も行い、日付が変わる前に帰宅できれば上出来という人もいるでしょう。睡眠時間が1日6時間を切ってしまう日も少なくないは...
投稿: 2019年10月24日
1900 年代半ばにハンガリー出身の生理学者、ハンス・セリエが「病気の原因はストレスである」と説明しています。ストレスと言うと一般的には精神的なストレスのことを連想するかもしれませんが、実際にはストレスは3つの種類に分類することができます。 精神的ストレス 肉体的ストレス 栄養的/ケミカル的ストレス。 ちな...
コメント
この記事へのコメントはありません。
この記事へのトラックバックはありません。