主な目次
第1章 ポジショナル・リリース・セラピー(PRT)の起源
第2章 ポジショナル・リリース・セラピー(PRT)の理論
第3章 治療上の意志決定
第4章 臨床原理
第5章 ポジショナル・リリース・セラピー(PRT)のスキャニング評価
第6章 治療の方法
第7章 臨床現場でのポジショナル・リリース・セラピー(PRT)の役立て方
第8章 新たな展望付録用語解説索引
訳者まえがき
手技療法の臨床家にとって、どのようなテクニックをいつ使用するのが最も効果的かというのは大きな関心事だと思います。いくつかの得意なアプローチ方法を持ち、状況に応じて使い分けられることが、治療の幅を広げ質を高めることに通じるでしょう。患者にとって安全で痛みを伴わないという絶大な長所があるポジショナル・リリース・セラピー(PRT)は、多くの臨床家にとって、魅力的なアプローチ形態であろうと思われます。
私がPRTに最初に出会ったのは、あるテクニック・セミナーで出会ったWarren Hummar, D.C.からでした。Hummar, D.C.は軟部組織の治療について多くの著作があり、自らセミナーも開催しているにもかかわらず、新しい知識を学ぼうと学生に混じってセミナーを受講されていました。幸運にもHummar, D.C.とペアになって練習することができたのですが、そこで教えられたテクニックより効果があるテクニックがあると私にやって見せてくれたのがPRTテクニックでした。ポジションに置くだけでほとんど動きがないにもかかわらず、明らかに実感できるリリースのある技術はたいへん印象深いものでした。これをきっかけとして本書の英語版を購入し、まずは自分の体で練習し、友達、そして患者さんへと実践で習得に励んでいます。読者の皆さまも、この本から実践に即役立つ多くの技術を習得されるものと確信しております。
この本の著者は、カイロプラクターと理学療法士です。そしてこの療法の創始者は、やはりオステオパスのJones, D.O.であることはだれも異論のないところでしょう。このように手技療法のさまざまな分野の専門家が発展させ利用してきたという事実も、PRTは多様なアプローチに柔軟に組み込むことができ、効果をあげることができるという証拠となり得るでしょう。
私は著者の一人Roth, D.C.には、トロントで一度お会いする機会がありました。カイロプラクティック大学時代に学んだテクニックに話題が及ぶと、自分はよいアジャスターだったが、今はアジャストをほとんど使わない、頚椎アジャストに至ってはここ5〜6年使っていないと語ったことが印象的でした。アジャストよりもっとパワフルなのが、PRTであり、本書の付録でも紹介されているテンセグリティー構造にアプローチする治療法であると確信しているということでした。Roth,D.C.は現在、特にテンセグリティー構造の治療の実践と探求をされており、そのセミナーを北米を中心に開催しています。
もう一人の著者のD’Ambrogio, P.T.は、臨床に携わるほか、PRT、を含むさまざまなテクニックの指導を行っています。国際的にも評価され、最近では世界各地でセミナーを開催しています。
この本のキーワード的な二つの用語の翻訳について述べておきます。手技療法の領域において、dysfunctionはさまざまな著者が独自の定義を当てはめて使用することが多い一方、一般用語としても汎用されている特異な用語です。日本語訳は機能不全、機能異常、ディスファンクションなども当てられていますが、この本では、最も一般的な訳語と考えられる機能障害を使用しました。機能障害の指標となるtender pointは、圧痛点とも訳すことができますが、一般用語の圧痛点とはオーバーラップしても一致するものではなく、PRT独自の概念であると考え、そのままテンダー・ポイントとしました。日本語版『Dr.ジョーンズのストレイン-カウンターストレイン』においては、圧痛点と訳されています。
本書ではストレイン-カウンターストレインを勉強してきた読者が移行しやすいように、付録にストレイン-カウンターストレイン用語とPRT用語のクロスレファレンスが掲載されています。掲載されている用語は『Dr.ジョーンズのストレイン-カウンターストレイン』以外の日本語訳されていない著作からも抽出されているので、ストレイン-カウンターストレイン用語は英語記載のままとしました。
最後にPRTは安全であるために、本から学んだことを直接日々の臨床で実践し、技術の向上に務められるテクニックであることを強調したいと思います。日本においてもこのすばらしいテクニックが、専門分野を越えて多くの手技療法臨床家の強力な道具として普及するために本書が役立てば幸いです。
2002年12月
翻訳者 櫻井 京